放っておいてくれ

□放っておいてくれ3
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俺の背中に苦無が数本刺さったらしい。マジで痛い。ちくしょー。
まぁ、善法寺に覆い被さっているお陰で、顔とかは無事だが。
苦無を投げた奴は、見たことがない忍装束の忍だった。多分、学園の生徒を一人でも捕らえて情報を吐かせる気なのだろう。
俺が善法寺を庇ったのは、別に善法寺を助けたいとかそんな美しい感情じゃない。万が一善法寺が死んでも、俺にとってはどうてもいいことだ。間違っても歓迎するような事態ではないし、寝覚めが悪いのは間違いないが。
俺が庇った理由は、持ち合わせている情報量の違いだ。
俺も六年生だから、大分学園の重要な情報は知っている。だが、善法寺はそれに加え同級生や後輩の情報を俺よりもたくさん知っている。たしか、こいつはどこぞの委員会の委員長だったはずだ。…多分。
それに加え、俺は同級生や後輩の名前すらほとんど知らないし、委員会にも入っていない。いなくなって困るのは当然善法寺の方だ。
だから庇った。だが、このままの体制でいるわけにはいかない。背中は痛むが我慢し、俺は立ち上がり、善法寺を背中に庇う。
…にしても背中が痛い。しかも俺、端からみれば結構勇敢じゃね?拍手喝采して欲しいくらいだぞこのやろー。…まぁ、英雄願望なんてそんなご立派な願望を持ち合わせてはないが。

取り合えず、木枝で俺たちを見下ろしている敵を見据える。そいつはこの勇敢な俺を嘲笑った。

「これはこれは…麗しい友情だな。」

声音にも、侮蔑が含まれている。
だから、俺が欲しいのは拍手喝采だ。間違っても侮蔑じゃあないぞ。
俺は背中の苦無を抜く。
…結構痛いぞちくしょー。しかも、さっきから背中がやたらじめじめしてると思ったら自分の血だった。まぁ、苦無が刺さったのだから当然だが。そこそこ出血もしているのだろう。なんか意識が朦朧としてきたぞ。毒塗ってないだろうな、この苦無。俺はまだ死にたくないし、間違っても自分を嫌っている奴を庇って死にたくはない。こいつら、俺が死んだら葬式という名の大宴会をしそうだ。まぁ、大福を供えてくれればそれでいいか。大福は正義だ。遺書に俺が死んだら大福を供えろと書いてこればよかった。あーあ、失敗した。

そんな阿呆なことを思っていたら、敵が数本苦無を構えた。
ふと善法寺、髪の色素薄い奴(竹谷)、双子の片割れ一号(雷蔵)を見れば、何と俺を見て硬直していた。
え、なんで硬直してんのお前ら。てか、そんな信じられないようなものを見たかのような目で俺を見るな。ここは人を呼んでくる場面だろーが。
俺は怒鳴り付けた。

「阿呆かお前ら!早く逃げて人呼んでこいよ!」

「で、でも…!」

善法寺は心底戸惑っている。他の二人も同様だ。視線は俺の背中に注がれている。
…あれか。こいつら、俺に嫌がらせする時は躊躇いなくやる癖にこういう時は躊躇うのか。いや、まさか、新手の嫌がらせじゃないだろうな。状況を考えろよな、このやろー。
…あ、背中マジでヤバイかも。何がっていうと、多分冷や汗と血による湿気がね。未だかつて感じたことの無いじめじめ度だぞ。
取り合えず、もう一度怒鳴ることにした。苦無は飛来してきている。俺は痛む背中にむち打ち、それを手にした苦無で叩き落としながら。

「さっさと行け馬鹿野郎共!新手の嫌がらせだかなんだか知らんが、状況を考えてからやれ!」

善法寺は頷いた。なにかを言いたげに、だが。

「竹谷、不破、行くよ!」

へー、あの髪の色素薄い奴と双子の片割れ一号はそれぞれ竹谷、不破って名字だったのか。新発見だ。まぁ、今後役に立たせることが出来るかに関しては望み薄だがな。ちくしょー。

三人が背を向けて走ろうとすると、俺は三人に攻撃がいかないように敵に苦無を投げつける。
が、敵はあっさり避けやがった…!空気読めよ、このやろー。
しかも、俺をまた嘲笑しやがった。

「自分は囮になるのか。素晴らしい自己犠牲の精神だな。」

俺も負けじと言い返すことにした。時間稼ぎのためだ。なんか、意識は朦朧としてきているが。
あ、ちなみに背中のじめじめ度もヤバイぞ。

「だろ、素晴らしい自己犠牲の精神だろう。嘲笑じゃなくて賞賛しろよなこのやろー。」

「ほう、まだそんな口が聞けるのか。」

「これが最後かもしれんからな。あ、お前、俺の最後の言葉を聞けよ。」

「…よかろう。」

敵が頷いたのを確認すると、俺は立っていることが精一杯の頭で考えた。耳には大勢の足音が聞こえる。マジか、囲まれるのか俺。まぁ、もういいか。
最期は格好良くと思い、敵を見据える。
が、敵は舌打ちして背を向けていた。あれ、何で?俺の最後の言葉聞けよな。
大勢の足音は俺に近づき、何人かは俺を抜いたみたいだ。そこで立っていることができなくなり、膝を折る。地面に体を打ち付けるかと思ったが、誰かに抱き止められた。

「…月波!」

しかも、名字を呼ばれている。
え、こいつ敵じゃないの?もしかして、俺って有名人?
朦朧とする頭でそんなことを考えた。が、そろそろヤバイ。
俺は最期の言葉を言うべく口を開いた。この際誰でもいいや。こいつがあの敵の味方なら俺の最期の言葉を伝えてくれるかもしれない。…望み薄ではあるが。

「あの世で…大福、奢れよな…このやろー…。」

なんか、俺を抱き止めている奴の動揺を感じた。いやいや、大福一個くらい奢れよな!
まぁ、最期に敵に動揺を与えれたし、最期の言葉も言えた。
俺は満足げに目を閉じた。
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