放っておいてくれ

□放っておいてくれ2
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雅斉は文次郎、仙蔵、留三郎、伊作を放置して自室に入った。
雅斉は同室の者はおらず、一人部屋だ。この学園において同室の者というのは他の同級生以上に親密な仲になり、互いに支えあっていく大切な存在というのは理解している。しかし、それはあくまで一般論。雅斉と同室になっても喜ぶ者はいないと知っているし、嫌われている現状で同室の者がいたらいいとは雅斉は全く思っていない。何より、二人分の場所を一人で使えるのは何かと都合がいい。
部屋の中の机には、文が二通置かれていた。小松田が置いていったのだろう。その文を手に取り、差出人を確認する。差出人の名は、一通目は才賀時生(さいが ときお)。二通目は高科桐蔵(たかしな とうぞう)。
雅斉が嫌われている現状を作り出した二人だ。
時生と桐蔵は下級生の時、雅斉と同室だった。仲はとても良かった。しかし、一年生の時のある実習で時生が大怪我をした。原因は時生が誤って崖から落ちたというもの。偶然近くにいたのは雅斉だった。雅斉は唖然として声を上げることすら出来なかった。その場を偶然見た桐蔵だ。桐蔵は雅斉が唖然としているのを見て、冷静でいると勘違いした。そして雅斉が時生を突き落としたと勘違いしたのだ。
その噂が広まるのも早かった。崖から落ちた時生は重症で意識がなく、間違いであると発言する者は雅斉以外いなかった。次の日には学園中に広まり、雅斉はあっという間に嫌われた。先生達もそれを信じ、一度は座敷牢に入れられた。
時生は三日後に目を覚まし、桐蔵の発言が間違っていることを訴えた。それで雅斉は先生達から謝罪を受け、解放された。しかし生徒には相当噂が広まっており、時生が訴えても、桐蔵が何度自分の発言が勘違いによるものだと発言しても誰も信じなかった。
最初は雅斉も必死に訴えてはいたが、諦めた。時生や桐蔵がいてくれたから何一つ困らなかった。しかし、端から見れば時生や桐蔵がなぜ雅斉の側にいるのか分からなかった。周囲は雅斉が時生を突き落としたと信じているから当然だろう。そこで雅斉が時生や桐蔵を脅していると噂が立った。
あまりにも噂が広まりすぎて、三人にはどうすることも出来なかった。最初は周囲から嫌われたこと傷ついていた雅斉であるが、一年生が終わる頃には慣れ、傷つくこともなくなった。時生と桐蔵が側にいたというのもある。
が、四年に進級する前のこと。時生と桐蔵は商家の跡継ぎだった。学園に来たのは護身術を学ぶためだ。四年生以上は本格的に忍の技術を学ぶ。忍にならない二人に、学園にいる理由がなくなった。そのため、実家に帰参することになったのだ。
雅斉が嫌われた原因を作った桐蔵は勿論のこと、時生も泣きながら雅斉に謝罪した。雅斉としては親友とも呼べる間柄になっていた二人がいなくなるのは寂しかった。しかし二人の家庭事情も理解している。何より、今さら周囲に嫌われていることに対して傷つくこともなかった。
二人が去ってからは、学園では本当に一人になった。しかし、二人との関係はまだ続いている。時々文を交わし、二人の実家が学園に近いため休日には遊んだりもしている。
学園でほとんど人と関わらない雅斉にとって、二人からの手紙は嬉しいものだった。

雅斉は二人からの手紙を読んだ。そして、顔をひきつらせた。内容は二通とも近況報告と雅斉を気遣うような内容。そして次に会う計画についてだ。その次に会う計画というのが問題だった。
二人は次の雅斉の休みに学園に来ると言っている。忍たまに見られれば間違いなく面倒事が起きる。
しかし、今から文を出しても間に合わない。

マジかよ、冗談じゃねぇぞ…!

だが、そんなことを思っていてもなす術はない。結果、雅斉は諦めた。
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