放っておいてくれ

□放っておいてくれ1
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僅かに白い雲が確認できる青い空。日が柔らかく差し、暑くもなく寒くもないほどよい気温。風は地面の草や木の枝を揺らし、その音によって間接的に存在を示す程度。
要するに、いい天気なのだ。
そんな中、雅斉は人通りの少ない木陰で転がっていた。
実に気持ちがいい。
今は委員会が行われている時間帯だ。誰かに遭遇する心配もない。気持ちよく眠れると思い、上機嫌で目を閉じた。


次に目を開けると、周囲はすでに暗くなっていた。たくさんの時間を寝て過ごしていたらしい。

「寝すぎたな…。」

辺りを見回し、呟いた。多分、もう夕食の時間は終わっているだろう。
取り合えず自室に戻ろうと思い、自室に向かって歩き始めた。
自室付近に着くと、自室の前で誰かが話ているのが聞こえた。
マジかよ、と心底めんどくさいと思いながら近くの樹に身を隠し、様子を伺った。

話しているのはサラスト野郎(仙蔵)と隈野郎(文次郎)、つり目野郎(留三郎)、よく穴に落ちてる奴(伊作)だった。全員入浴を済ませているのか、寝巻き姿だ。ちなみに、この四人は昔は友人であり名前を覚えていたが、今は忘れてしまった。

ふと思い出したようにつり目野郎が言う。

「そういえば、今日は月波見てないよな。」

「ああ、言われてみればそうだね。」

よく穴に落ちてる奴が同意する。
サラスト野郎は俺の話をするのが嫌らしく、心底忌々しいと言いたげな表情をしている。

「あんな奴などどうでもよかろう。」

声音にもいかに俺のことが嫌いかが滲んでいる。昔は傷ついたものだが、今の俺は全く傷つかなくなった。慣れもあるし、俺は彼らに関心がなくなった。現在では友人と認識せずに自分に害を与える連中、という認識だ。既に名前も覚えていない。
四人の会話が終わるまで待つつもりでいた。しかし、会話がいつ終わるかは分からない。関心がない有り体に言ってどうでもいい奴のために時間を割いてやるほど俺は寛大ではない。
俺の自室の前で話す四人を極力視界に入れないようにし、自室に向かって歩き出す。
四人のお世辞にも好意的とは言えない視線が向けられる。
無視して自室に入ろうとすると、隈野郎に嘲笑された。

「無視かよ。」

その言葉を、俺は綺麗に無視した。相手にしてもろくなことはないと学習している。
さっさと消えてくれねぇかなぁ、と思いながら扉に手を掛けると、つり目野郎が俺の肩を掴み、強引に振り向かせた。

「何とか言えよ!」

つり目野郎の怒声に、俺は顔をしかめた。

「うるせぇな、至近距離で怒鳴るな。」

「なんだと!?」

俺の返答が気にくわなかったらしいつり目野郎が、俺の胸ぐらを掴んだ。
俺はため息をついた。

「お前ら、俺のこと嫌いだろ?」

俺の問いに、四人が当然だと言わんばかりに肯定した。

「はっ、分かってるじゃねぇか。」

「留三郎と同意見というのは気にくわないが、その通りだな。」

「…僕も。」

「私もだ。お前が自分が嫌われていないと勘違いしてないようで安心した。」

最後のサラスト野郎に至っては、侮蔑すら滲んでいる。
四人の返答に、俺は不敵に笑った。
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