□楔7
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雅時が実家からの手紙を持って学園長の部屋に行った日の翌朝、雅時は小平太に起こされた。

「雅時!」

小平太に名を呼ばれ目を開けて上半身を起こす。小平太以外にも仙蔵、文次郎、長次、留三郎、伊作までいる。しかも、寝間着姿だ。全員暗い表情で雅時を見ている。伊作に至っては半泣きだ。雅時としては何故暗い顔をしているのかが分からない。雅時は首をかしげた。

「朝から何事だ。」

「雅時が五日後に学園を辞めるって聞いたんだ!」

「は?」

小平太の説明に、雅時は目を瞬く。

「そのような予定はないが。」

「でも、皆その話してるんだよ!?」

伊作が半ば叫ぶように言う。雅時は顔をしかめた。

「伊作、朝から大声を出すでない。…取り合えず、そなたらは落ち着いて座るがよい。」

床を示すと、全員が座った。仙蔵が雅時を見据える。

「それで、学園を辞めるというのは嘘なんだな?」

「無論だ。その話、どこから聞いたのだ?」

「私達は、長次から聞いた。」

雅時は長次を向く。長次は視線を受け、ぼそぼそと話す。

「…昨日、雷蔵から聞いた。雷蔵は三郎から聞いたと言っていた。」

「鉢屋から…?」

そのような勘違いをされる原因になる出来事はあっただろうかと首をかしげた。思い出すうちに、一つ思い当たることがあった。昨日、一時実家に帰参することを学園長に知らせた時のことだ。そこには三郎を含め学級委員長委員会の面子がおり、学園長との会話を聞いていたのだろう。学園長との会話を考えれば、勘違いするのも無理はない。

「ふむ。五日後に実家に帰るのは本当だ。なれど、十日もすれば帰ってくるぞ。」

「辞める訳じゃなかったのか…。」

留三郎が安堵したように息をつく。そして首をかしげた。

「でも、なんで帰るんだ?畑の収穫の手伝いって訳じゃないだろ?」

「妹の裳着だ。」

理由を言うと、長次と仙蔵以外が首をかしげた。文次郎が問う。

「も、もぎってなんだ?」

「女子の成人の儀で、始めて裳をつけるのだ。」

「へ、へぇ…。」

曖昧に頷いた文次郎を、留三郎が嘲笑した。

「お前、どうせ意味わかってないだろ。」

「なっ…お前だってだろ!?」

「なんだと!?やるか!?」

「望むところだ!」

二人は立ち上がって胸ぐらを掴み合って睨み合っている。雅時と仙蔵は呆れを露にした。

「朝から元気なことだ。」

「ああ。その元気、是非とも別で使ってもらいたいものだ。」

「まぁ、気力を無駄に使う余裕があるのは悪いことではないからな。」

喧嘩をするのは別に悪いこととは思わない。が、部屋を荒らされても迷惑だ。雅時は立ち上がると、普段携帯している蝙蝠扇(かわほりおうぎ)ではなく檜扇を手にし、胸ぐらを掴み合っている二人に近づいた。
二人の付近では、二人を止めようと伊作がおろおろしている。

「雅時!」

雅時を見ると、伊作は安堵した様子を見せる。
そんな伊作に対し、雅時は微笑した。

「私が止める故、そなたは下がっているがよい。不運が発動しても困るからな。さて…。」

雅時は檜扇で文次郎と留三郎の頭を思いきり叩いた。

「「何すんだよ!」」

涙目で抗議する二人に、雅時はため息をついた。

「場所を考えてから喧嘩をするがよい。ここは私の部屋だ。そなたらの頭を叩いたのが檜扇であったこと、感謝するがよい。次は鉄扇で叩く。」

雅時の言葉に、二人は顔をひきつらせた。雅時は一度やると言ったら間違いなく実行する。謝るのが正しい判断だ。

「「悪かった。」」

二人の態度に、雅時は満足げに頷く。

「分かればよい。」

二人が落ち着いたのを確認すると、座っていた長次が立ち上がる。

「…そろそろ、着替えた方がいい。」

小平太が頷く。

「そうだな。安心したら腹が減った。」

「あ、僕も。じゃあ、着替えてくるね。」

伊作が部屋を出ると、それに続いて雅時以外全員が部屋を出た。
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