□楔4
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放課後、雅時は楽器の指導のためにくのいち教室に赴いた。雅時が個人的に所有している楽器は琵琶と龍笛だ。大抵の楽器は授業で困らない程度の力量があるが、琵琶と龍笛は特に得意だ。
今回のくのいち教室での指導は琵琶が中心であり、思ったよりも指導しやすかったため疲労感はあまりない。しかし時間がかかったため、日は既に沈み始めており、綺麗な夕日が見える。
雅時は楽器を置くために自室に向かうと、その途中で生物委員に遭遇した。遭遇した生物委員は、一年生の三治郎と孫次郎だ。必死になにかを探しているようだ。恐らく、毒虫が逃げたのだろう。

「三治郎、孫次郎。」

雅時が声をかけると、二人は半泣きの状態で駆け寄ってくる。

「雅時先輩ぃぃ…。」

雅時の名を呼ぶ孫次郎に至っては、声音に涙が混じっている。
駆け寄ってきた二人に、雅時は優しく笑う。

「また毒虫が逃げたのか?」

「そうなんです。もう暗くなってきてるのに…。」

いつも笑顔の三治郎ですら、泣きそうな顔をしている。
だが、それも納得できる。暗くなってからでは、小さな虫を探すことは困難だ。

「手伝って下さい、雅時先輩ぃぃ…。」

涙の混じった孫次郎の頼みを、断ることは出来るはずもない。

「勿論だ。可愛い後輩が頑張っているのを、放置しておくわけにもいかぬ故な。なれど、楽器を持っているままでは都合か悪い。楽器を置いてくる故、少し待つがよい。」

「「ありがとうございます…!」」

先程より少し早く歩き、自室に向かった。就寝前に兵助と約束があるため、この時間に自分の予習を済ませるつもりであった。だが、生物委員を放っておくわけにもいかない。予習は少し夜更かしすれば大丈夫だろう。不運な某委員会の委員長が知ればしつこく説教しそうな話だが、鍛練などで上級生は夜更かしする率は高い。特に問題はないだろう。
雅時はそう結論を出し、三治郎と孫次郎がいる場所に戻った。

生物委員との活動が終わったのは、日が完全に沈んだ頃だった。星が綺麗に輝いている。

「雅時先輩、ありがとうございました!」

孫兵の礼に、雅時は笑みを浮かべて頷いた。

「ああ。取り合えず全ての毒虫が無事に見つかって良かった。」

一年生はお腹を擦っている。

「僕お腹空いちゃった。」

「僕もだよ、一平。」

虎若は一平に同意すると、竹谷の袖を引く。

「先輩、お腹空きました!早く晩ご飯食べに行きましょう!」

孫次郎は雅時の袖を引く。

「雅時先輩も、一緒に行きましょう…!」

「そうだな。私も空腹だ。」

夕食は生物委員と一緒に食べた。夕食を食べるには遅い時間だったらしく、食堂にいる人は少なかった。早く入浴を済ませてしまわなければ、兵助が部屋に来てしまう。
入浴の支度をするべく、足早に自室に向かった。
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