□楔3
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翌日授業に復帰した雅時は、珍しく授業を真面目に聞いていた。昨日の戸惑いは、寝て落ち着いたためかもうない。普段は外を眺めるなどしており、授業に完全に身が入っていることは少ない。だが今日は任務で出れなかった授業の分の遅れを取り戻さなければならなかった。
お陰で午前の授業が終わる頃には、普段より強い疲労を感じていた。
蝙蝠扇(かわほりおうぎ)を開き、口許を隠すと一度欠伸をした。眠くて仕方がない。昼食は抜いて睡眠時間に当てるか、と思っていると、どこか呆れたような声音が横からした。

「雅時、飯行くぞ…って、お前、眠そうだな…。」

顔を向けると、仙蔵と文次郎がいた。呆れたような声音は文次郎のものだ。二人は立っており、雅時は座っている。自然と雅時は二人を見上げる形になる。

「ああ、そなたらか。珍しく真面目に授業を受けたら、眠とうて仕方がないのだ。」

「食べれば眠気も覚める。立て、雅時。」

仙蔵の声音からして、昼食を抜いて寝ると言えば間違いなく無理矢理つれていかれるだろう。それ以前に昼食を抜いたことを知られると、不運で有名な某委員会の委員長に何をされるか分かったものではない。
結局、昼食を抜くという選択肢はないのだ。
雅時はそれを悟ると、開いていた蝙蝠扇を閉じて懐にしまい、渋々立ち上がった。


食堂に行くと、一番混む時間帯らしくとても混んでいた。席を探す三人に、小平太が手を振っている。

「雅時、仙蔵、文次郎!」

一緒に長次もいる。三人は近づいた。
机につく二人を見て、仙蔵が首をかしげた。

「留三郎と伊作は?」

「あー、うん。なんか伊作が滑って墨をぶちまけたらしくてな。その掃除してる。」

小平太の説明に、仙蔵と文次郎は呆れを示した。

「またか、あいつは…。」

「教室で滑って墨をぶちまけるなんて、滅多にあることじゃねぇぞ…。」

が、雅時は典雅に笑った。

「ははははは、相変わらずであるな、伊作は。後で手伝いに行くか。」

雅時の提案に長次が頷く。
なるべく早く昼食を昼食を終えて、は組の教室に皆で行くことにした。


昼食を終えは組の教室に向かって歩いていると、庭に藍色の制服の集団が見えた。五年生だ。午前中は実習だったのだろう。
雅時はその方向を何となく見ながら六年は組の教室に向かって歩いていると、五年生の集団の中にいた兵助と目が合った。
兵助はぱっと顔を輝かせ、駆け寄ってくる。

「雅時先輩!」

雅時は微笑すると、一緒に歩いていた四人を見る。

「申し訳ないが、先に行ってもらえるか?」

雅時の言葉に四人は首をかしげた。しかし、駆け寄ってくる兵助を見て納得顔になる。

「うん、分かった。早く来いよ!」

「勿論だ、小平太。すまないな。」

四人が雅時を置いて歩き出した頃、兵助が雅時の前に立った。
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