放っておいてくれ
□放っておいてくれ23
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一方、他の六年生は食堂にいた。
「あれ、小平太は?」
伊作が首をかしげた。寝坊だろうか、と考える。
そんな彼に、長次が答える。
「…いや。雅斉を呼びに行くと行って飛び出していった。」
「え?」
揃って全員が目を見開いた。
雅斉は、今までのことを水に流すとあっさり言った。本当に今までのことをなにも覚えていないようだから、彼はそれで納得し、少なくとも今のところはそれでいいのだろう。
しかし六年生にとってはそうではない。今までのことを全て水に流すと言われても、罪悪感が消えるはずがない。許されたことでさらに罪悪感が増した。その罪悪感を抱えて何もなかったかのように雅斉に接するなどできない。雅斉を見るたび、罪悪感に苛まれるのは分かりきっている。
もしかしたら、雅斉はそれを見越して今までのことを水に流すと言ったのかもしれない。下手に報復するよりよっぽど効果のある復讐だ。
雅斉とどのような距離感で接すればいいか分からない。
誰も口を開かない。自分達の側を通りすぎる下級生達が不思議そうに自分達を見ているのを感じた。
そんな中、
「やっちまったぁぁぁぁ!」
と叫ぶ声。
聞き間違えるはずのい、雅斉の声だ。
そしてその後に続く、
「ちょ、何で廊下走ってるんですか!」
という左近の怒鳴り声。
その周囲の、恐らく下級生のものであろう楽しげな笑い声。
ここの暗い空気とは、まるで違った。
…なんでまた怒鳴られてるの俺。
「いや、寝過ごしてだな…。」
「寝過ごしたからって廊下走っていいわけじゃありません!それに、何ですかその頭巾!」
「あー、うん。慌てててだな。」
…仕方ないじゃないか、慌ててたから頭巾どころじゃなかったんだよ俺。
面倒だなぁ、本当に。
「んじゃ、お前が何とかしてくれ。」
よっこらせ、と川西に背を向けてしゃがむ。
「そ、そのくらい自分でやってください!」
「面倒だからなぁー。」
なんて言いながら、目の前の二年生のほっぺをつまむ。うわ、癒しだなぁ、おい。
こいつ確か、体育委員だっけ。
「い、痛いんだな!」
「お、悪い悪い。」
ちなみに俺と一緒に寝ていた七松は、俺の近くで眠たそうに目を擦っている。どうやら、睡眠が中途半端だったらしい。
そして俺の近くを一年生が通っていく。
「あー、先輩方、おはようございます!あれ、雅斉先輩、また川西先輩に怒られたんですかぁ?」
…なんか、俺が怒られるの定着してね?
山村の発言でそう思った俺。しかも、周囲の一年生は楽しそうに笑っている。
何でこうなった。
仕返しにほっぺを摘まむ俺。
癒されるなー、なんて思う。
そんなことをしていると、後ろから背中を叩かれた。
「終わりましたよ、月波先輩。」
「お?そうか、悪いな。」
「そう言うくらいなら、もっとちゃんとしてください!」
「へいへい。ありがとうな。」
わしわしと川西の頭を撫でる俺。
その後ろでは、
「あー、先輩また怒られたぁー!」
とか
「まただー!」
なんて声が。
悪かったなちくしょー。
でも、何となく悪い気はしない。
学園はここまで嫌な気がしない所じゃなかった。何となく、不思議で嫌な気のしない、不思議な感覚なのであった。