放っておいてくれ

□放っておいてくれ21
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どのくらい寝てんのかな俺。
次第にはっきりしてくる意識の中で、ぼんやり考えた。なんかお腹が温いぞ。

「先輩、起きてください。月波先輩!」

俺を起こす声が聞こえる。起きるべきかな、これ。でも俺はまだ寝てたい。
その意を示すべく、頑張って声を絞り出した。

「…あとちょっとだけ…。」

頑張ったぞ俺。さぁ、また寝よう。最近は生活環境が変化しまくったせいで俺は疲れてるんだ。
意気揚々と目を閉じた。
が、

「いつまで寝てるつもりですか、月波先輩!」

…川西に怒鳴られた。
仕方ないから目を開ける。お前、俺に恨みでもあるのかこのやろー。
文句は色々ある。
が、

「…あー、うん、悪かった。」

口を開いた瞬間、謝ってしまった。条件反射というやつだ。
なんでこうなる、俺。
ふと温い腹を見れば、鶴町がいた。困ったような表情で俺を見上げている。
温い原因はこいつか。
やっちまった…。

「おー、悪かったな、鶴町。」

「そんなことより大変なんです、月波先輩!」

やたら切羽詰まった声音。
俺の周りを取り囲んでいる奴等も、なんか切羽詰まった表情。
さっきのカビ生えそうなしんみりはどうしたんだ。
俺は鶴町を解放すると、のっそり立ち上がった。

「ふにぃぃぃ〜。」

体を伸ばす俺。俺はこの感覚が好きだ。
が、

「何してるんですか、早く行きますよ!」

川西に袖を引かれた。俺の楽しみ奪うなよなー、このやろー。

「何があったんだ?」

引っ張られながら聞く俺。
それに答えたのは、意外にも五年生の女顔の奴(←兵助)だった。さっき号泣してたから、目が赤い。

「綾部が月波先輩の部屋の前に大量の蛸壺を掘ってるんです。」

…こんな時間に蛸壺。すげぇ信念。

「ほー。それはすごいな。」

…いや待て。別に蛸壺を掘るのはいい。勝手にやってろ。が、誰の部屋の前に掘ってると?

「おい、黒髪の五年生。」

一気に頭が冷えた。声音が冷たくなったのを自覚した。
女顔の奴(←兵助)は少し怯えたみたいだが、俺に名を言った。

「…五年い組の々知兵助です。」

…なんか、昔に聞き覚えがある名前だ。が、今はそれどころではない。

「六年い組の月波雅斉だ。」

俺は名を名乗られたら名乗り返すという信条がある。たぶんこいつ、俺の名前知ってるけど。
俺は言葉を続けた。

「念のため聞くが、どこで蛸壺を掘っている?」

「月波先輩の部屋の前です。」

…やりやがったな綾部。俺の部屋の前だと、埋めるのは俺じゃねーか!
怒っている俺は、きっと悪くない。

「あぁやぁべぇぇぇ!」

俺の手を引いている川西を抱え、全力疾走する。

「ちょ、先輩!?」

「いいからお前は黙ってろ川西!早くしないと俺は今夜徹夜になる!」

…いや、そもそも枕投げで徹夜のはずだったんだけどな。穴埋めで徹夜とは違う。枕投げなめんなよ。
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