放っておいてくれ

□放っておいてくれ20
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一方、雅斉は相変わらず情けない様子でおろおろしていた。
…なんで泣いてるのこいつら。
さっぱり分からない。

「げ、元気出せ。そんなに泣いてたら湿気で食堂がカビるぞー。」

…全く泣き止まない。最近、泣くのが流行りなんかな。
意味分からん。どうすればいいの、俺。


思いっきり場の空気を読めていない雅斉に対し、この場にいる全員の想いは同じだった。
彼らは幸い雅斉のように嫌われることはなく、友人と助け合うことができている。
実習で辛いこともたくさんあった。
鍛練がうまくいかずに悩むことも、勉強がうまくいかないことも、家族と離れていて辛いこともたくさんあった。
それを乗り越えられたのは、仲間と呼べる同級生や先輩、後輩という繋がりだった。自分が困った時、迷わず手を差しのべてくれた彼ら。どれだけ彼らに助けられたのだろう。
雅斉には、それがなかった。親友二人がいた頃は、まだよかったのかもしれない。
だが二人が学園を去り、実習では人を殺めるなど、精神的にも辛いものが増えた。
雅斉は誰に頼ることもできず、それを一人で乗り越えたのだ。
雅斉は心が冷たいから、人との関わりがなくても大丈夫な人間ではない。最初は、雅斉が心の冷たい人間だと思っていた。いつも警戒心に満ちた、険しい表情だったから。だが、それは警戒しなくては生きていけなかったからだ。
雅斉は面倒見がいい。根が優しい人だというのは間違いない。
そんな雅斉が今まで一人でこれたのは何故か。
それはきっと雅斉が強いからだ。頼ることのできない環境で、強くならなければ生けていけなかったのだ。
そして、その強くなる過程でどれだけのことに耐え、乗り越えてきたのか。それは、自分達にはさっぱり分からない。
それがいかに幸福なことか、身をもって分かった。
今日部屋に帰ったら、同室の友人にお礼を言ってみることにする。
きっと感謝の想いの全てを伝えることは出来ない。
それでも、今日なら少しは伝わるだろう。
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