放っておいてくれ

□放っておいてくれ12
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雅斉が去った後、五年生は揃って後悔した。
話しかけたところまではよかった。だが、今更何を言えばいいのか分からなかった。
竹谷が、心底気落ちしたようにため息をつく。
そんな彼を、雷蔵慰めるようとした。

「元気だしなよ、八左エ門。」

「ああ…。」

慰められようが、竹谷は暗い。
雅斉に関して、五年生のなかで一番気落ちしているのは竹谷だった。他の五年生も雅斉とは接点があり可愛がってもらっていた。
だが、雅斉はかつて生物委員会だった。一番親しかったのは竹谷だったのだ。
竹谷が気落ちしている理由は、他にもある。実習での態度を見る限り、雅斉は明らかに竹谷のことを覚えていない。それどころか、五年生五人を全員覚えていない。
まさか、忘れられているとは思わなかった。これならば、憎悪の対象とされる方がまだいいし、憎悪の対象とされるのなら納得もいく。
だが、忘れられている今の状態では謝ることすらできない。
気落ちしていると、尾浜が小さく呟いた。

「そういえば、最近の月波先輩、やたら下級生と親しげだよな。」

これもまた、竹谷と五年生を気落ちさせる原因だった。
なんとか話せるようになりたいと思っているが、自分達は話せるようになるどころか挨拶すらまともにできない。焦るばかりだ。
だが、それに反して雅斉は何故か下級生と仲良くなっている。
正直、下級生が羨ましくて仕方がないのだ。

「取り合えず、朝食を食べに行くぞ。このままじゃ授業に間に合わない。」

そう五年生を促したのは三郎だ。彼も気落ちした様子ではあるが、このままでは埒が明かないと判断したのだろう。
今まで黙っていた兵助は頷くと、竹谷の肩を慰めるように叩いて歩き出した。彼もまた、酷く気落ちした様子だった。
自分達の後ろで、雅斉が誰かと話している声が聞こえた。当然、下級生だ。多分、二年の左近だ。

「月波先輩、今日、必ず包帯変えに来てくださいね!まだ傷が完治した訳じゃないんですよ!」

「あー、はいはい。分かってる分かってる。お前もなかなかしつこい奴だなぁ。」

面倒そうな雅斉ではあるが、自分達に向けるような殺伐としたものはない。普通に軽口を叩いているだけのようだ。

「しつこいってなんですか!」

「あー、はいはい。俺が悪かった。必ず行くから、お前が変えてくれよ。」

「あ、当たり前です!ちょ、なにするんですか!」

起こっている様子ではあるが、どこか嬉しそうな左近の声音。雅斉に頭をぐしゃぐしゃと撫でられたのだろう。

「ははは、普段から叱られてる仕返しだこのやろー。」

「なんですか、それ!」

「あー、悪かった。んじゃ、俺行くから。」

どうやら、会話は終了したらしい。
左近と雅斉の会話は、すべてがもう五年生五人と雅斉との間ではできないものだ。
改めてそれを突きつけられて、更に気落ちした。
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