放っておいてくれ

□放っておいてくれ11
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保健委員の下級生と自分との出会いを聞いて、雅斉は顔をひきつらせた。
…そんなことあったか?
すさまじい勢いで過去の記憶を探るが、真面目に覚えていない。

「わ、悪い。俺、忘れるって言ったことは本気で忘れる主義でな、真面目に覚えてねぇ…。」

申し訳なく思って言うが、数馬は少し寂しげに笑って首を横に振る。
数馬は雅斉が忘れる事に長けていて当たり前だと思っている。
仲の良かった同級生に疎まれるというのは、耐えがたいほどの苦痛だ。だが、知らない人から疎まれるのは仲の良かった同級生に疎まれるよりは遥かにマシだ。だから、雅斉は同級生との仲の良かった時のことを覚えていないのだろう。
そうでなければ、心が壊れてしまう。

「仕方ないですよ。次忘れたら怒りますけどね。」

…影薄いくせして寛容ないいやつだな。
数馬の言葉に、真面目にそう思った。
そして数馬に便乗するように、伏木蔵と乱太郎も言う。

「先輩、僕のこともですよー。」

…お前の場合、個性ありすぎて忘れようとしても無理だぞ。

「私も!」

…うん、お前に関しては自信ないけどがんばるわ、俺。

して俺は名前を確認する。が、あることに気がついた。
俺は数馬の名字を知らない。いくらなんでも、名では呼べないのだ。
困ったなー、なんてのんきに思っていると、人数分のお茶の入った湯飲みを持った左近が入ってきた。

「月波先輩、お茶です。大福食べるなら、これと一緒にどうぞ。」

湯飲みが差し出される。
俺はそれを受けとると、左近への印象を変えた。
…なるほど、実はいい奴だな、こいつ。名字知らないけど。
俺は保健委員下級生の名前を覚えようと、顔と名前を一致させる作業を始めた。
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