放っておいてくれ
□放っておいてくれ11
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桐蔵の姿を見て、時生の表情に悔しさが滲んだ。
時生は、自分が崖から落ちる前から雅斉と桐蔵を親友だと認識している。だからこそ、雅斉に嫌がらせをしていた同級生達を決して許せない。そして、たくさん傷ついていた雅斉を助けられなかった自分のことも許せない。
桐蔵が雅斉が疎まれる原因を作ったと、自分を責めていた。そんな桐蔵をただ見ていることしかできなかった自分も許せない。
時生はかつての同級生達を見ず、再び桐蔵を促した。
「行くぞ。」
「ああ。」
桐蔵は頷くと、時生と共に学園を出た。
一方雅斉は、保健室で叱られていた。勿論、左近に。
「月波先輩は何度言えば分かるんですか!勝手に出歩かないようにと何度も言ったでしょう!」
何でこんなに怒られてるんだ俺。
左近に叱られながら、ふとそう思った。俺はただ単に、大福のお伴となるお茶を淹れに行こうとしただけである。
別にいいじゃないか、そのくらい。
内心はそう思っているが、言おうものなら間違いなく面倒だ。
「悪かった、お茶が飲みたいと思っただけだ。」
「それなら僕達に言えばいいでしょう!」
…言えるわけねぇだろうが。俺はそんな風に人を手軽に使えるほど唯我独尊じゃねぇぞ。
てか、桐蔵と時生とは全然話せてねぇんだけど。
真面目にそう思った。でも面倒だから頷いておく。
「分かった、以後そうする。」
ちなみに、他の保健委員の下級生は俺と左近を苦笑いを浮かべながら見ている。俺を助けろよ、と少し思う。
というか、俺は疑問に思っていることがある。保健委員の下級生な何故か俺に対して敵対心、警戒心というものがない。
俺は上級生達の影響で、下級生からも盛大に嫌われている。今では六年生は改心したらしく、俺を嫌ってはいないらしい。まだ奴等のことを信用はしていないが。
取り合えず、下級生はまだ俺のことを嫌っているはずだ。上級生の俺に対する態度が変わったからといっても、いきなり俺に対して好意を持てるはずがない。
だから、警戒心というものが全く感じられない保健委員の下級生達に、俺は疑問を抱いている。
そんなことを考えていると、気が付いたら左近が俺の前からいなくなっていた。というより、保健室から出ていったらしい。
「やっと行ったか…。」
三日間続いた嵐が去ったような気分である。…三日間続く嵐というものを経験したことはないが。
取り合えず脱力する俺に、数馬が近づいてきた。
「月波先輩、左近は先輩に対して口煩いですが、悪くは思わないでください。先輩を思ってしているんです。」
「悪くは思ってねぇが…そこまで世話やかれる理由は分からねぇな。」
これが本音だ。それを言うと、数馬は少し寂しそうな顔をした。後ろにいた鶴町と猪名寺も同様だ。
…え、何したの俺。
「…俺、お前らに何かしたのか?」
分からないので聞いてみる。や、だって分からないものは仕方ないじゃないか。
すると、数馬は俺と保健委員の下級生との出会いについて語り始めた。