放っておいてくれ

□放っておいてくれ4
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首をかしげていると、顔をひきつらせている土井が目に入った。

「えっと…お前、本当に分からないのか。」

…分からなくて悪いかこのやろー。

「…聞き覚えだけはあります。」

そう、聞き覚えだけはあるんだよ!ほら、歴史の試験でよくある、名前は分かるけどそいつが何したかは分からない、みたいな感じ。
俺を含め、全員がポカーンってなった。端から見ればさぞ滑稽だろう。
が、そのポカーンを破ったのは乱太郎だ。俺の袖を掴む。

「取り合えず、保健室に戻りますよ!来てください!」

「え、いや、俺は今から実習に行くつもりなんだが…。」

「その怪我で何言ってるんですか!」

…もしかしてこいつ、保健委員?
疑問浮上。だとしたらお礼をしなくてはいけない。俺の治療をしただなんて俺を嫌っている奴らに知られたら、何かと面倒だろう。

「あー、お前、乱太郎でいいのか?すまんが名字が分からん。」

「猪名寺乱太郎です。」

「自己紹介感謝する。六年い組の月波雅斉だ。お前、保健委員か?」

「そうです。」

「俺の治療、したのも保健委員か?」

「はい、新野先生の手伝いくらいですが。」

マジで保健委員だった。やっぱり俺の治療に関わっていた。俺を積極的に嫌っているのは五、六年生。自然と保健委員はその五、六年生に睨まれることになるだろう。乱太郎は一年生だ。同じく五、六年生ならまだしも、一年生だと辛いに違いない。凄まじい罪悪感が俺を襲う。
取り合えず、そいつに向かって頭を下げた。再び俺以外がポカーンとなるが、そんなことを気にしていられない。

「すまなかった、本当に申し訳なかった。」

「は?」

「俺なんかの治療をしたら、俺を嫌っている奴らから何ぞ言われただろう。本当に申し訳なかった。」

未だに頭を下げる俺に、別の一年生が袖を引いた。その周囲の一年生を見れば、戸惑ったように周りと顔を見合わせている。

「えっと…、月波先輩は一年生の頃、同級生を崖から突き落としたと聞きました。…本当ですか?喜三太を助けてくださったし、乱太郎に対する態度といい、そんなことをする方には見えません。」

どこか怯えたように、遠慮がちに聞いてくる。周りの一年生からは、

「庄ちゃんすごい!」

とか言われている。
まぁ、質問の内容を考えれば当然ではあるが。
…というより、一年生にまで話回ってたのか。すっげー。

「いや、勘違いされてるだけで俺はそんなことやってないぞ。時生…いや、同級生が間違って落ちた現場に俺がいただけだな。でも、上級生が時生を俺が突き落としたと思ってるから、そういうことにしとけよ。何かとお前らも面倒だろうからな。」

そこまで言って気がついた。今授業中ではなかったか。俺は盛大に授業を妨害していることになる。
顔をひきつらせ、土井を見た。そして、頭を下げる。

「すいません、先生。今授業中だということを忘れてました。六年い組がどこで実習してるか聞こうとしただけなんです。すいませんでした!」

…真面目に許してください。わざとではないですよー。ごめんなさい。
ちなみに、土井は苦笑いしていた。

「いや、喜三太を助けてくれたんだしそれは構わないんだが…。お前、その怪我で実習受けるのか?」

「勿論です。」

即答した俺に、乱太郎がまた怒鳴る。そして、土井に問う。

「駄目です!土井先生、月波先輩を保健室にお連れしてもいいですか!?」

「そうしてくれ。」

土井は即答した。なんか俺は強制送還されるらしい。

「行きますよ!」

腕を引く乱太郎。仕方なく着いていこうとすると、ある現実に気がついた。
俺、数日間風呂に入ってねぇ…!さぞ臭うことだろう。それだけならまだしも、そんな臭い体でさっき一年生を受け止めた。さぞ受け止められた喜三太は不快だったろう。
再び罪悪感が押し寄せる。俺に興味津々と言わんばかりの表情で見ている喜三太を見る。

「あー、お前、喜三太だったか?」

問うと、笑顔で頷かれた。

「はい、山村喜三太でぇす!」

…元気な奴だな。まぁ、いい。俺は軽く頭を下げる。

「さっきお前が木から落ちたとき、迂闊に受け止めて悪かったな。俺、数日風呂に入れてねぇから、臭かっただろ。悪かったな。」

謝罪すると、喜三太だけでなく他の一年生、土井もポカーンとなった。
…え、何で?まぁ、いいや。
気にせず俺は保健室に向かった。
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