□楔 1
4ページ/4ページ

心底驚いているらしい文次郎に、雅時は微笑みかけた。

「そなた、面白いことを言う。私以外の誰に見えるというのだ。」

「いや、でも今日の午後の授業にはいなかっただろ。いつ帰ってきたんだよ。」

「午後の授業の最中だ。報告に学園長先生のもとに赴いたら、授業への復帰は明日からでよいと仰せられたのでな。」

「なんだ、そうだったのか…。取り合えず、無事で何よりだ。」

「ああ。感謝を、文次郎。してそなた、ここには委員会絡みで田村を探しに来たのであろう?委員会はよいのか?」

「ん?ああ、もう行く。また後でな。三木エ門、行くぞ!」

「はい!」

慌ただしく二人が去っていく。それを見送ると、綾部と滝夜叉丸もそれぞれ委員会に行くと言って去った。

「雅時君、僕達も行こう!」

「ああ。」



火薬委員会の活動場所に着くと、タカ丸以外の委員はすでに揃っていた。

「あ、遅いですよタカ丸さん…って、雅時先輩!?」

三郎次が、心底驚いたような顔をして駆け寄ってくる。
雅時は微笑んでその頭を撫でた。

「手伝いに来た。」

「あのねぇ、僕がお願いしたんだよぉ。」

「そうだったんですか。タカ丸さんもたまには役に立つんですね。」

「たまにはって…。」

相変わらずの辛辣ぶりだ。本人が冗談のつもりであるのが困りものだ。
話しているうちに、伊助と兵助も駆け寄ってきた。

「こんにちは、雅時先輩!今までどこに行っておられたのですか?」

「学園長先生のお使いだ。少々遠方でな。」

「お土産は!?」

嬉々として問うてきた伊助を、兵助が苦笑いと共に咎めた。

「伊助、雅時先輩は遊びに行ってきたんじゃないんだぞ。」

伊助の無邪気な様子を見て、暗殺した城主の息子の姿が重なった。あの幼子も、暗殺した日の昼間は伊助のように無邪気に笑っていた。自分は天井裏から覗いていただけだったが、子供らしく満ち足りた笑みだったのを覚えている。
ふと罪悪感にかられた。
ここにいる間は、罪悪感と恋情は捨てることに決めている。まず間違いなく枷になるからだ。
だから、戸惑いを感じた。
その戸惑いが表情に現れていたのだろう。兵助が不思議そうな顔で雅時を見ている。

「雅時先輩?」

雅時は誤魔化すようにいつもの笑みを浮かべた。

「いや、何でもない。」

罪悪感は消えた訳ではなかったが、表情に出すわけにはいかない。幸い自分に同室の者はいない。悩む時間はたくさんあるのだ。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ