難儀なことだ

□難儀なことだ6
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雅時は、自分の胸ぐらを掴み上げていた同級生ではなく、その行為を止めた同級生を睨み付けている。その同級生もまた、硬直していた。
彼らの知る雅時といえば、上品でいつも優雅な笑みを浮かべている穏やかなで優しい人物、だった。言葉遣いは尊大だが、それを疑問視させない品がある。滅多なことでは怒らないし、鋭い声も上げない。
が、目の前にいる雅時は明らかな怒気を瞳に宿らせている。激しい怒気ではなく、静かで冷たい鋭利な刃の様なものだ。
常の威厳も手伝い、かなりの恐怖を覚えた。一人の同級生が顔を後退りする。
雅時は冷やかな声で問う。

「もう一度、いってみるがよい。私が、何しかできないと?」

「…っ。」

問われた方はあまりの驚きと恐怖で答えることができない。
そんな様子の同級生を、雅時は嘲笑した。雅時は蝙蝠扇を開き、口許を隠す。開かれる蝙蝠扇の音が静まり返った空間に妙に響いた。

「全く…情けないものだな。一人を数人で囲んでおいてこの様か。」

侮蔑を含んだ声音。それを聞いた同級生達は驚きであまり働かない頭に一つの疑問を浮かべた。
目の前で激怒している人物は本当に雅時なのか、と。
雅時が友人との語らいで冗談で見下すような内容の発言をしたのは聞いたことがなかった。

雅時は嘲笑の笑みを消し、無表情でありながら瞳には冷たい怒気を宿す。

「一つ、良いことを教えよう。私のことを憎むもよし、嫌うもよし。勝手にするがよい。なれど、何があろうと不当に侮辱されるのは耐えられぬのだ。よく覚えておくがよい。」

恐ろしく冷たい声音で言うと、雅時は自分を囲んでいた同級生達を押し退け、悠然と歩き始めた。
同級生達は、ただ呆然と雅時 を見送るしかなかった。

その背が見えなくなった頃、ようやく硬直から解放された同級生達は俯いた。

「…なんか、雅時に悪いことしたな。」

「ああ。あいつが怒ってるのなんて初めて見たよ。」

「そりゃ、いきなり空から人が降ってきたら害があるかないかくらいは確かめるよな。下手に頭から疑ってるの態度で示すより探りやすいから、雅時の天女様に対する態度は態度は妥当だしな。」

「…そういえば俺、何であんなに天女様に心酔してたんだろ…?」

一人が呟いた疑問に、全員が首をかしげた。ここ数日間はそれに対して何の疑いも持たなかった。が、冷静になって考えると不思議な話だ。
全員が沈黙した。
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