放っておいてくれ
□放っておいてくれ 番外編4 (前編)
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一年の頃の竹谷と夢主の馴れ初めのお話。なんか長くなったので、取り合えず前編。
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俺が入った委員会には、月波雅斉というひとつ上の先輩がいる。いつも険しい顔をしている人だ。笑った顔なんて見たことがない。他の先輩との仲もどこかよそよそしい。
その月波先輩が一年の頃に同級生を崖から突き落として怪我をさせたと聞いたとき、月波先輩のことが嫌いになった。自分の友人たちを思い出すと、同級生を突き落としたという月波先輩の行動が理解できない。
後輩である俺にたいしても興味を示すことはない。
笑うことのない、冷たい人。
そう思った俺は、どこか軽蔑した目で月波先輩を見ていた。
そんなある日の委員会で、飼育している生き物達の餌を確保しに、裏の山まで行った。色々な生き物がいる山というのは面白いもので、ついつい夢中になってしまった。
「……ここ、どこだ?」
ふと我に返り、周囲を緑に囲まれ、どこなのか検討もつかない。ふと空を見上げれば、夕焼け独特の色になっていた。
まずい、と思いとりあえず歩いてみる。だが、誰もいない。
足も疲れてきて、とりあえず座り込む。
どうしよう、帰れない。
急にそんな実感が湧き、涙が零れた。
そんな時、足音がした。
「こんなところにいたのか」
呆れを滲ませた声。
誰だろう、と思いながら声の主を見ると、月波先輩だった。
「…………月波先輩が何でここに?」
自分でも声が固くなるのが分かった。自分で思ったより、同級生を突き落とした先輩を俺は軽蔑しているらしい。
他の先輩ならよかったのに、何でこの人が。
月波先輩はそんな俺に一瞬だけ眉を潜めるが、なにも言わなかった。なにかを諦めている、そんな表情だ。
「お前を探しに来た以外に何がある。生憎、俺は夕方や山奥に入るほど馬鹿じゃない。ほら、分かったらさっさと適当な枝拾え」
どうやら、助けに来てくれたらしい。
でも、何で枝拾い?
「何で枝を拾うんですか?早く帰りましょう」
そう言うと、思いきりため息をつかれた。
「あのな、今から帰っても途中で暗くなる。そんなときに山奥を歩いたら遭難するだけだ。自殺の方法としてならそれなりにいい方法だとは思うぞ」
「……野宿するんですか?」
「そうだ」
あっさり頷いた先輩の言葉にたいし気が重くなった。
ただでさえ嫌いな人の部類に入る人と、一晩野宿をしなければならないなんて。
すると、そんな俺の考えを月波先輩は分かったらしい。
「お前も嫌かもしれんがな、俺も嫌なんだ。ここはお互い様だと思って我慢しろ」
そんなあっさり言われても、同級生を突き落とした人と一緒というのか怖い。
「……でも、先輩は……」
そこで言葉を止める。
だが、俺が何を言おうとしたかも分かったらしい。というより、慣れているらしい。
「安心しろ、俺はお前に危害なんか加えない。この状態でお前が怪我でもしたら俺が責められる。俺が今からお前を助けるのはお前の為じゃない。お前を見つけた段階でお前を助けないという選択肢は俺にはない。何されるか分かったもんじゃないからな」
そう言うと、月波先輩は面倒そうに枝を拾い始めた。