放っておいてくれ

□放っておいてくれ30
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「……あたし、何でか知らないけど雅斉くんの記憶があるんだよ。」

…………何言ってんの、赤点女。
俺の記憶がある?意味分からん。
思考が停止した俺。他の六年生たちも、俺とにたような反応だ。そりゃあそうだ。他人の記憶がある、なんて発言は普通は信じてもらえるものではないし、変人扱いされても文句は言えないものだ。

「だから、あたしはあなたたちが雅斉くんにしたことも、それからどうなるかも全部知ってる。」

…………え、なにこれ。俺はどう反応すればいいの?
困る俺。
しかし、食満は動揺しつつもなんとか言葉を絞り出した。

「そんな話、信じれるわけねぇだろ!」

怒鳴る食満。うん、こいつはちょっと暑苦しいな。
赤点女の表情は暗くなった。

「あたしだって信じたくないよ。でも、あるものは仕方ないじゃない。あなたたちが雅斉くんにやらかしたことがたまに夢に出てきてあたしはねむれないことだってあるんだから!」

そう言いながら、斉子は夢で見たことを思い出す。
雅斉に向けられた冷たい言葉、冷たい視線。時代のせいか、たまに雅斉には想像できなかったほどの残酷な行為もある。それに対する、雅斉の冷たく、なにかを諦めたような表情。
今まで平和に生きてきた斉子にとって、恐怖を覚えるには十分なものだった。
それらを思い出し、ふたたび恐怖を覚えた。
雅斉が四年生のときに体験した筈の、人を殺す授業。首級を片手に帰還した雅斉に向けられた言葉。
人というのはそこまで残酷になれるのかと震えた。
その言葉を発したのはここにいる誰でもなかった。それでも、雅斉を疎んでいた者には変わりない。
斉子にとって、雅斉以外の六年生たちは皆同じだった。



一方雅斉は、ふたたび六年生と斉子の間にいた。
驚きから回復した俺だが、奴らはそうでもないらしい。なんだかえらく深刻な顔をしている。多分、俺が蚊帳の外になるような話が理由で。
……俺、いなくてもよくね?
そう思った俺は、そっとその場を立ち去った。
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