放っておいてくれ

□放っておいてくれ28
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「………もう一回聞くよ。今、何て言った?」

穏やかではあるが、間違いなく怒気を孕んでいる声音。
笑みを浮かべていながらも、どこか凄みのある表情。
この声音と表情の主は、桐蔵のもの。
それに対峙する時生は、顔をひきつらせながら後退りした。

「いや、だから、雅斉が奴らとの和解を決めたんだって。」

………怖い。
時生は内心で呟く。
時生と桐蔵が話していたのは、当然雅斉のことだ。
雅斉が六年生達との和解を決めたことを桐蔵に話に来たのだ。いくら和解する、と言ってもそう簡単にいくものではないことは想像がつく。それも含めて話しているのだが、雅斉本人と時生以上に六年生を憎んでいる桐蔵の怒髪天を衝くのは容易だった。
桐蔵にとっては、和解、ということがすでに有り得ないらしい。

「お、落ち着け桐蔵!」

何とか桐蔵を宥めようとする。
すると、桐蔵の笑みが深くなった。

「落ち着いてるよ。落ち着いてないのは君の方だ、時生。」

そこまで言うと、今度は桐蔵の表情がなくなった。声音も変化し、怒気と憎悪、嫌悪感など様々な感情が入り交じった声音になる。

「勿論、和解を選んだ雅斉に対しては何とも思っていない。そもそもこの件の原因を作ったのは僕だ。怒るなんてとてもできない。」

そう言き桐蔵の拳は、強く握り絞められていて震えている。
そして、でも、と続ける。

「原因を作った僕だからこそ、雅斉を守る義務がある。いくら雅斉が和解を選んだからといって、ここでなにもしなかったらあの馬鹿共が調子に乗るのは目に見えている。」

あの馬鹿共、とは当然六年生達である。
桐蔵の気持ちは、時生には痛いほど分かる。
時生にも、今回の件の責任がある。雅斉が和解を決めたことに文句を言う資格どころか、六年生達を責める資格すらないことは分かっている。
だからといって、雅斉が傷つけられるのをただ黙ってみているのでは以前となにも変わらない。
とはいえ、六年生達も大分変わっていた。きっと桐蔵が危惧していることは起こらないだろう。
それを実際に見て理解している時生は呑気なものだが、それが分からない桐蔵にはなにを言っても無駄だ。
だから、時生が桐蔵に言えることはただひとつ。

「………雅斉に会いに行くなら、手土産の大福忘れんなよ。」
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