放っておいてくれ

□放っておいてくれ27
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…あ、ヤバイ、やってしまった…。
冷や汗を流すあたし。
いやね、だって仕方ないじゃないの。赤点かもしれない科目なんだもの、化学と英語。
一気に冷えきった室内の空気。戸惑った目で皆はあたしを見ている。もちろん、雅斉も。
てか、あたしが雅斉が記憶あることって言わない方がいいのかな?スパイだとか思われたら困るもんね。か、化学の公式とか英語の文を暗号文って…!
まぁ、気持ちは誰よりよく分かるけど。
でも、本当にテストどうしよう。
あ、涙が止まらないぃぃぃぃ!

「うっ…うぅ…」

呻きながらごしごしと目を擦るあたし。
すると、気まずそうに鉢屋くんが私の肩を叩いた。

「えっと…取り合えず、泣かないでください。」

声音が引きっている。
そりゃ、いきなり泣かれたら困るよね。でも、仕方ないじゃん。

「それで、この書物は何ですか?」

彼らが指すのは、もちろんあたしの教科書たち。

「教科書だよ、教科書。これは英語で、これが化学。そんでこっちが物理で、こっちが数学。」

すると、彼らはあたしの教科書を調べ始めた。本気でスパイだとか思われてるらしい。
あたしみたいな奴がスパイできるわけないってあたしが一番分かってるよ、ちくしょう。
彼らが一生懸命あたしの教科書を見ている間、あたしは考えた。
あたしには雅斉の記憶みたいなのがある。雅斉が過去に体験したことは勿論、そして彼の将来もある程度は分かる。
あたしの持っている記憶では、雅斉はこの学園ではどう考えても幸せじゃない。
昔の誤解で疎まれていた雅斉は、背中に怪我をしたことが原因で一度は和解しかけるのだ。でも和解がうまくいきそうだったのは、雅斉がほとんどの出来事を忘れていたから。
周囲と接するうち、それもだんだんと思い出してきて、最終的には周囲を遠ざけた。周囲の人間が罪悪感も消えかけた頃で、これがもし復讐なら見事な時期だと思う。
周囲の人間を喜ばせるだけ喜ばせて突き落としたことになるから。
まぁ、雅斉は無意識だったようだけど。
そしてそのまま卒業、というのがあたしの中の雅斉の記憶。
問題は、今がどんな状況か、だ。
別に雅斉が忍たまたちに何をしようが構わないし、彼らがどうなろうがあたしはどうでもいい。
あたしだって、彼らのことが好きじゃない。
でも、あたしがいることで雅斉の未来が変わるのは困る。卒業してからの雅斉はちゃんと幸せになって、子供や孫に囲まれてちゃんと畳の上で亡くなった。
その未来を変えたくはない。
雅斉があたしの前世なのかただのそっくりさんなのか、あたしの夢なのかは分からない。でも、同じ顔には幸せになってほしい。
それに、あたしはまだ死にたくない。
どうしようかな、あたし。
取り合えず、どうしようもないな、なんてて思った。
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