□楔22
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雅時が倒れてから二日後、雅時は大分元気になった。明後日には授業に復帰できるだろう。心配性の伊作のせいで、まだ保健室生活を余儀なくされているが。
放課後、暇をもて余している彼が取り組んでいるのは、きり丸のものだという宛名書きのアルバイトだ。
雅時の手元を、乱太郎が覗きこんだ。

「きり丸のバイト、終わりましたか?」

「あと少しだ。」

そう言い、筆を進める。
それからほとんど時間がたたないうちに、全て終わらせた。

「さて…。」

筆を置き、宛名書きを終えた紙の束を見る。途方もない満足感を得た。


その後、雅時は紙の束を持って一年は組の教室に向かう。伊作から、もうほとんど移ることもないか少しなら外に出てもいい、と許可をもらったのだ。
あと少しで一年は組の教室というところで、声がした。

「雅時先輩は、すごくいい人なのに!」

この声は伊助だ。どうやら、自分のことが話題になっているらしい。しかも伊助の声音からして、内容は決して好意的なものではない。
間が悪かったか、と苦笑いする。
立往生してしまった雅時に、恐らく職員室からやってきたであろう土井が笑顔で歩み寄ってきた。この位置で話しかけられては、間違いなくは組の教室に聞こえてしまう。
が、邪険にするわけにもいかない。

「ああ、よかった。元気になったのか。」

「はい。」

「お前に任せるはずだった委員会の仕事がたまっているからな。頼むぞ。」

冗談めかして言う彼に、雅時は笑う。

「はい。」

返事をするが、土井が不自然に黙っている。彼の視線の先は、は組の教室。
教室は妙に静まり返っていた。
間違いなく、雅時の声が聞こえたからだろう。
少し申し訳ないことをしたな、と思ったが、取り合えず顔を出すことにした。

「きり丸はいるか?」

笑みを浮かべて顔を出すが、教室は自分を見てさらに気まずい雰囲気になる。
きり丸は、おずおずと前に出た。

「これを、そなたに。」

雅時が差し出したものを見て、きり丸は驚きを露にした。

「…なんで、九十九院先輩が俺のアルバイトを?」

「長次に頼まれたのだ。」

驚いているきり丸に、三治郎が自慢げに言う。

「ほら、やっぱり雅時先輩はいい人じゃん。それなのに、雅時先輩があまり好きじゃないって…。」

「三治郎!」

途中で、誰かが三治郎を止めた。そこで三治郎は自分の発言がどのようなものかを気づいたらしい。
取り合えず雅時が来た頃に、は組の教室ではきり丸が雅時のことを好きではない、ということを言ったようだ。
は組全員の気まずそうな表情に、雅時は苦笑いで応じた。

「すまぬ、盗み聞きをするつもりではなかったのだ。」

怒っていない雅時に対し、は組の大半は安堵の表情になる。
ただきり丸だけは、不満そうに紙の束を持っている。
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