放っておいてくれ

□放っておいてくれ10
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翌日、俺は未だに保健室に監禁されていた。ぶっちゃけ、暇である。教科書も読みつくした。
そしてなぜか、俺の前には保健委員が全員いて、薬草の仕分け作業をしている。俺はそれを布団に転がって、のんびり眺めている。
…てか、お前ら授業はどうしたんだ?
そんな疑問を胸に抱いた。
俺の視線に気づいたらしい鶴町が、不思議な笑みを浮かべて近づいてきた。
…よく見たら、こいつの頬、触りたくなる何かかがあるな…!
新たな新発見である。近寄ってきた鶴町の頬を人差し指でつついた。
…おぉ、気持ちーな。

「月波先輩?」

「あー、悪かった。あまりにも暇でな。てか、お前ら授業は?」

「今日は休みです。知らなかったんですか、月波先輩。」

「…知らんかった。」

…日付の感覚が狂ってたな。
ちょっと反省した。
なるほどなるほど。休みだったのか。休みに俺は保健室に監禁されてるのか。何たる不運。
…休日?ちょっと待てよ。休みと言えば何かあった気がするぞ。
嫌な予感がする。
数日前、時生と桐蔵から手紙が来ていた。その手紙に、休みに関することが書いてあった気がする。
…そういえばあいつら、次の休みに忍術学園に来るとか言ってなかったか?
そこまで考えて、俺は凄まじい勢いで起き上がった。
保健委員が俺を凝視する。だが、そんなことに構っている暇ではない。これは俺の命にかかわるのだ。精神的には、間違いなく。
俺は徒競走のスタートダッシュのごとく駆け出す。

「月波先輩!?」

「雅斉!?」

驚いたらしい保健委員が俺の名を呼ぶが、そんなことを気にしている暇はない。正門に向かって全力疾走する。

「ちょ、待ってよ雅斉!」

「待ってください、月波先輩!」

保健委員が俺を追いかけてくるが、俺はそれを振り払うように走る。俺だってこのくらいはできるのだ。


正門に来ると、人だかりができていた。その中心にいたのが、時生と桐蔵だった。
二人は俺を見ると、一方はどこぞのやくざのような笑みで、もう一方は品のいい、邪悪な笑みで俺を見た。
俺の背に嫌な汗が伝う。
その二人が近づいてくる最中、俺を追いかけてきていた保健委員が到着した。
善法寺が時生と桐蔵を見て唖然としたのを感じた。

「時生に桐蔵!?…なんでっ…!」

唖然とする善法寺に、桐蔵は邪悪な笑みで言う。

「久しぶりだね、善法寺。生憎、僕たちは雅斉に用があるんだ。」

そして善法寺には目もくれず、二人が俺に近づいてくる。

「よぉ、雅斉。久しぶりじゃねぇか。」

お前は一体どこのごろつきだ。
声をかけてきた時生に対し、俺は反射的に思った。
まぁ、そんなことはどうでもいい。俺は二人に対して手を差し出す。

「大福は?」

俺が至極真面目に言うと、二人は心底呆れた笑みを浮かべた。
俺が冷や汗までかいて全力疾走した理由は、俺に会いに来るこいつらが土産に持ってくる大福にあった。以前俺が少し遅れたとき、二人して全部食べてしまったのだ。俺にとって、俺が食べるはずだった大福を他人に食われたなど、何があっても許すことはできないのだ。
桐蔵は、自分が持っていた包みを俺に差し出した。

「ほら、雅斉。お土産だよ。」

迷わず俺は受け取ると、その包みの重さに笑みを浮かべた。

「おぉ、毎回悪いな。ありがとう。」

満面の笑みで礼を言い、俺は踵を返し、保健室に向かって歩き出した。
…おばちゃんにお茶でも淹れてもらうかな。待っていろ、俺の大福!
意気揚々と歩き始めると、時生に襟首を捕まれた。

「まてこら。お前、俺たちは無視か。」

「全く。大福が絡むと他のことが見えなくなるのは変わらないな。そういえば、なんでこの時間に寝間着なんだい?だらしないだろう。」

桐蔵の問いに、雅斉は考えを巡らした。怪我をしたことを言うと、間違いなく理由を詮索される。そうなれば、間違いなく面倒になる。
俺の怪我の原因とも言える善法寺が、暗い表情でうつ向いた。
…まだ気にしてたのか、こいつ。
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