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□2.追いかける
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────私は、「帽子屋」になった。
いつか聞いた台詞だ。
────だから、君を側に置くことは出来ない。
違う。そんなことは言われなかった。
────仕方ない。君はジャバウォックで、審判で、
嫌だ。辞めて。
────中立なのだから。
置いていかないで。
走っても走っても、あの背中に追い付けない。
遠い闇の向こうに溶けていってしまう。
「待って……!」
口を突いて出た叫びにつられて目が覚めた。
何て嫌な夢なんだろう。
思い出の改悪ほど最悪な悪夢は無い。
こういう時こそ、夢魔が働くべきじゃないのか。
彼が居たら、また吐血しそうな罵詈雑言を思い浮かべながら窓の外をみやる。
そこは確かに帽子屋屋敷の敷地だ。
そして私は帽子屋ファミリーの一員。
大丈夫。置いていかれてなんて、いない。
壁際のトルソーに掛かっている、少々派手すぎる薔薇付き帽子を見てアガートは微笑んだ。
私の居場所は、確かにここにある。