いかさまジャッジ
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「痛いじゃないか、アガート」
「セクハラ上司が悪いのよ」
書類仕事に集中し過ぎて人の気配に鈍感になっていた。
次からは注意しなくては。
ペンをペン立てに戻し振り向けば、上司であるブラッドが立っていた。
わざとらしく、つねった手の甲を擦っているのが腹立たしい。
「なんのご用?やっとご機嫌が直って仕事をしてくれる気になったのかしら」
「ああ、仕事ならするさ。その前に、まずはお茶会だ。君は疲れているだろう?部下を労るのも上司の勤めだからな」
「自分がお茶会をしたいだけでしょうに」
ブラッドは口の端を持ち上げ、目を細めた。
「よくわかってるじゃないか」
当たり前だ。いったいどれだけ長い付き合いだと思っているのか。
溜め息をもう一度吐いて仕事机から立ち上がる。
どうせ一度言い出したら聞かないのだ。ならば早々に終わらせるに限る。
「直ぐにお茶会の準備をするわ。貴方は今日の茶葉を選んでなさいな」
「そうさせてもらおう」
まずはメイドに茶菓子の手配。他の使用人にはテーブルのセッティング。それから……。
この屋敷ではお茶会の準備など皆手慣れている。そう時間はかからないだろう。
あとは夜の時間帯が少しでも長く続くことを祈るのみだ。