蝙蝠は夢想する

□4.5
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初めて見たときは変な女だと思った。

蝙蝠が住み着いたという報告は聞いていたし、その気性も噂程度には知っていた。

それでも絵具まみれの黒いワンピースは異質だった。

この世界では汚れようが壊れようが、時間が経てば何もなかったように元に戻る。
それが戻る間もなく汚れ続けているということは、それだけずっと絵に接しているということだ。

ジェリコは美術館なんてものを経営するくらい美術品が好きなのだ。

その美術品を造り上げる人間に惹かれない訳がなかった。

いつしか、街を歩いていてグレタを見掛けると様子を伺うのが癖になった。

画材屋でグレタの描いたという絵を見つけた時には、なぜ蝙蝠の作品というだけで皆が毛嫌いするのかさっぱり理解ができなかった。

周りがグレタの作品を理解しないのなら、自分が独り占めしたいとすら思った。

その時までは「グレタの作品」が気になるのだと思っていた。


ある日、グレタが珍しくスケッチブックを抱えて町外れに向かうのを見つけた。

ジェリコはグレタがどんな景色をスケッチするのか気になってあとをつけてみたのだ。

しばらく歩くと見晴らしの良い高台に辿り着いた。

グレタは適当なところに座り込み、其処から見える景色をスケッチしだす。

ちょうど、その瞬間だった。
グレタの服についた絵具が消え、夜の時間帯に切り替わった。

ジェリコは息を飲んだ。

グレタの服装が、喪服のように見えたのだ。

なんて、寂しそうな奴なんだろう。

そう思うと同時に、グレタ自身が触れがたい美術品のように思えてきた。

危うくて、脆い。

ジェリコはグレタを欲しいのだと、その時自覚した。

やがて行動を起こし、現実に彼女を手にいれることになる。

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