蝙蝠は夢想する
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「グレタにはここで絵を描いてほしい。ただ、それだけじゃなくて美術館のスタッフとしても働いて欲しい」
「絶対嫌」
「だろうな」
間髪いれずに答える。
言われなくても絵は描く。ただ、それを見せびらかす気がないだけで。
美術館のスタッフ?冗談じゃない。
ジェリコの美術館は常時、長い行列が出来ている。
そんな人の多いところで働くなど考えられない。
ジェリコも私の反応を予測していたのか苦笑いする。
が、すぐに真面目な顔を作った。
「無理にスタッフをしろとは言わない。ただ、それなら尚更グレタの絵をここに飾らせて貰わないとな。
滞納した家賃とツケ、どうやって返してくれるんだ?」
……返す言葉がみつからなかった。
今の私の経済状況では絵具一つ買えない。
それどころか、この領土内では何一つ自由に出来ないようジェリコに手回しされるだろう。
他領土にでもいけば、それこそいつ蜂の巣にされるやら。
この領土では絵描きの私を殺さないよう、指示がされていたからその心配が無かっただけだ。
今の私に安住の地など、無い。
ジェリコに従うしか、ない。
「私の絵を、誰かに売ったりしないで。いつでも私が見ることが出来る場所に保管して」
私の絵を、取り上げないで。
子供じみた物言いになっただろうか。
しかし、ジェリコは笑うことなく、しっかりと頷いた。
「わかった、約束だ。グレタの絵は、アンタの隣の部屋に集めるよ」
この時から、蝙蝠が墓地にすむことが決まった。