蝙蝠は夢想する

□3
2ページ/2ページ

「……!グレタ!!」

右手を強く掴まれる。
これでは絵が描けない。

「なに」

乾いた口から出た声は自分の声と思えないくらい低かった。

「なにじゃねぇよ。さっきから呼んでるってのに。……いつもそんな顔して絵を描いているのか?」

人差し指で眉間をグリグリと押される。

皺でも寄っていたのだろう。それがどうしたというのか。

「アンタは私が絵を描きさえすれば満足なんじゃないの?」

だから、放っておいてくれと言外に滲ます。

「その言い方だと語弊があるな。他にも頼みたいことがあるし。って……そんな嫌そうな顔すんなよ」

無意識に眉間の皺が深くなる。
それをまた指でグリグリ押して指摘された。鬱陶しいこと、この上ない。

掴まれたままの右手を振ってジェリコの拘束から逃れる。

「どこまで嫌がらせをしたら気がすむの」

「蝙蝠ってのはそういうもんだろ。どこまでもみんなに嫌がらせされる」

嫌われ者だと、ジェリコは薄く笑う。人好きのするような笑い方ではなく、マフィアらしい笑い方だ。

忌々しすぎて殺したくなる。

「グレタ、アンタは嫌われたくなくて独りになりたがるからな。独りになりようが無くするのは、最高の嫌がらせだろ?」

腰に手を回され耳元で囁かれる。
ああ、もう、本当に。

「……最っ低」

姿だけをみたら寄り添いあう、恋人のようだ。

が、二人の表情には甘さなど欠片もない。

「……アンタは俺の物だ。借金のカタに取り立てた。あんまり逆らうなよ」

「……」

ジェリコに手を引かれ、部屋を出る。

私は、静かに暮らしたかっただけなのに。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ