蝙蝠は夢想する
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「……!グレタ!!」
右手を強く掴まれる。
これでは絵が描けない。
「なに」
乾いた口から出た声は自分の声と思えないくらい低かった。
「なにじゃねぇよ。さっきから呼んでるってのに。……いつもそんな顔して絵を描いているのか?」
人差し指で眉間をグリグリと押される。
皺でも寄っていたのだろう。それがどうしたというのか。
「アンタは私が絵を描きさえすれば満足なんじゃないの?」
だから、放っておいてくれと言外に滲ます。
「その言い方だと語弊があるな。他にも頼みたいことがあるし。って……そんな嫌そうな顔すんなよ」
無意識に眉間の皺が深くなる。
それをまた指でグリグリ押して指摘された。鬱陶しいこと、この上ない。
掴まれたままの右手を振ってジェリコの拘束から逃れる。
「どこまで嫌がらせをしたら気がすむの」
「蝙蝠ってのはそういうもんだろ。どこまでもみんなに嫌がらせされる」
嫌われ者だと、ジェリコは薄く笑う。人好きのするような笑い方ではなく、マフィアらしい笑い方だ。
忌々しすぎて殺したくなる。
「グレタ、アンタは嫌われたくなくて独りになりたがるからな。独りになりようが無くするのは、最高の嫌がらせだろ?」
腰に手を回され耳元で囁かれる。
ああ、もう、本当に。
「……最っ低」
姿だけをみたら寄り添いあう、恋人のようだ。
が、二人の表情には甘さなど欠片もない。
「……アンタは俺の物だ。借金のカタに取り立てた。あんまり逆らうなよ」
「……」
ジェリコに手を引かれ、部屋を出る。
私は、静かに暮らしたかっただけなのに。