蝙蝠は夢想する
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視界が曖昧で、自分の存在が不確かなもののような錯覚に陥る。
いや、始めから不確かなものだったな。
自虐的な考えから目を反らすように辺りを見渡せば、見知らぬ部屋だった。
描きかけの絵や、机の上のパレット、スケッチブック、絵筆、見覚えの有るものもあるが、ここは私の部屋ではない。
ああ、そういえば墓守が───
大方、彼の所有する美術館のスタッフ用の部屋といったところだろう。
ベッドからゆっくりと降りる。
薬の影響か、まだ脳の奥が痺れているみたいだ。
元の家から持ち込まれたものを確認していく。
画材は全て揃っていた。それどころか、切らしていたり少なくなっていた絵具が補充されている。
スケッチブックも真新しいものが一冊置いてあった。
代わりに、やはりというか完成していた絵は全て持っていかれている。
「ここで絵を描き続けろって?」
蝙蝠の描いた絵を誰が好むというのか。
今までそんな奇特な人間はジェリコくらいだ。
美術館に飾られても、蝙蝠が描いたというだけで避けられるのがオチだというのに。
蝙蝠は嫌われる。そういうものだ。そういう役だ。
中途半端な存在だから、気味が悪い。
グレタの中で何かが込み上げてきた。
絵だ。絵を描かなければ。
描きかけのキャンバスに、もやもやとしたモノを叩き付けるように筆を走らせる。
感情、想い、多分そんなものだ。
不意にノックの音がした。
ガチャと、ドアが開く。
そんなことはどうでも良い。
今は絵を描く。
「……、……!」
なにも聞こえない。私は「私」を絵に塗り込めていく。