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□砂が吹かれ、水に波紋を。
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『ーッ!!!!!』

布団を押しのけてガバリと起き上がる。
夜明けというにはまだ早く、夜中というにはもう遅い時間に彼は目を覚ました。
体にはしっとりと汗をかき、息も乱れている。
とても気分の悪い目覚めだ。

落ち着いて枕元の時計をみると、時刻は明け方3時。
春が近いとはいえまだまだ薄暗い時間だ。
はぁはぁと乱れる息を整えて、念のためと用意しておいた水を口に含む。
乾いた喉にさらりと潤いが戻ってくる。

頭を抱えて、さっきの夢を思い出す。

『また…あの夢…』

そう、実は彼…緑間真太郎がこの夢を見るのは始めてのことではなかったのだ。
ここ数日程、緑間は同じ夢をみている。
よくわからない世界にただ一人放り出されて、同じ事を繰り返し行うだけの夢だ。
何の意味があるのか、どうして同じ夢ばかり見るのか、緑間には疑問ばかりが残る。
むしろ薄気味悪いとも感じていた。
何の心当たりもなく、特にストレスや不安に感じている事もないのに。むしろこの夢そのものが緑間自身にストレスを与え、不安を植え付けていると言っても過言ではない。

『なんなのだよ…ッ』

怖い、気持ち悪い、怖い、怖い、怖い、怖い気持ち悪い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!!!!!!!!!

緑間は思わず布団に潜り込み、大きな体を兎の様に縮こまらせた。
受験を控えた身なのに、こんなことで良いのだろうか。
自分が受けるのはあの名門秀徳高校だ。
こんな不安定な状態で受験に望めるのか。
焦りと不安で緑間は壊れそうだった。

そのときだった。
ピリリ、ピリリ、とケータイが着信を告げた。
そっと手を伸ばして画面をみると、そこに映し出されたのは帝光中学バスケ部のエースであり恋人の青峰大輝の名だった。

『…なんだ』

『よぉ、どうだ今夜は』

何故青峰から電話、と思ったがすぐにそういえば、と昨日の放課後の会話を思い出した。

いつもの様に二人で薄暗い道をのんびりと帰っている時の事だ。
最近様子がおかしい緑間を心配した青峰が『なんかあったなら言えよ』なんて柄にもないことを言い出したものだから、つい緑間はここ数日見ている奇妙なあの夢の話をしまったのだ。
言い終わってから笑われるか、と後悔したが、青峰は意外にも真面目に聞いてくれていて、『じゃあ今夜?明日?の朝3時くらいになったらお前に電話してやるよ』なんてまたまた柄にもないことを言い出した。
どうせそんな事忘れて爆睡するのだろうと思っていたから忘れていたのだ。

『…最悪だ』

『また見たのか』

『もう、嫌なのだよ…こんな夢』

『緑間…
なぁ、明日の朝、俺が行くまで学校いくなよ?』

『は?』

『だからァ、迎えに行ってやるから待っとけっつってんだよバァカ』

『なっ、馬鹿とはなんだ!
それにそんなもの要らないのだよ。どうせお前は朝起きられないだろう。
お前に巻き込まれて遅刻などごめんなのだよ』

『んなつれねーこというなよ?
つかもう、これから毎日お前んとこ迎えに行ってやるよ。
そうすりゃ俺も早起きできて、お前はそれを楽しみにして寝れるだろ?
イッセキニチョーじゃねぇかよ』

『何故お前の迎えを楽しみにする前提なのだよ』

『いちいちうっせぇなぁ。
いいから黙って俺の事待っとけ』

緑間は青峰の言っている意味がわからなかった。
一人でのんびり登校できる時間を奪われ、さらにほぼ毎日寝坊の連続で朝練ギリギリの時間に顔を出す青峰を待たねばならないのか。
自分まで遅刻をするではないか、と。

でも、意味がわからない、なんていうのは緑間が心の中で自分に言い聞かせた 照れ隠し だった。
あの不器用俺様な青峰が、自分の事を思って苦手な早起きをすると言っている。
毎朝迎えにいくと言っている。

そう、自分たちは仮にも恋人という関係にあるのだ。
世間的にもそう簡単に受け入れられる関係ではないがゆえに手を繋いで歩く事も、堂々とデートする事も出来ない。
それでも少しでも一緒に居たくて、帰りは一緒に帰るし、休みの日やテスト前はほぼ毎日のようにどちらかの家に行くのが決まりのようになっている。
そんな密かな付き合いだからこそ、少しでも一緒に居たいと思うのは至極当然の事なのだろう。
恋人が辛いのなら尚更、だ。

『ふん、仕方ないから待っていてやるのだよ…。
ただし時間を一秒でも過ぎたら俺は先に行くのだよ』

『はっ、ゼッテェ遅刻なんかしねーよ』

『それはいい心がけなのだよ。
せいぜい頑張る事だな』

『相変わらず可愛くねーなぁ。
ま、そんなとこがお前らしいっちゃあお前らしいんだけどな。
そうと決まりゃ俺はそろそろ寝るけど。
もう、大丈夫か?』

『あぁ、だいぶ気が紛れたのだよ』

『はは、そりゃーよかった。
んじゃ、また明日な』

『あぁ』


電話を切って、元の位置に再び戻した。
明日の朝、奴が本当に時間通り現れるのか見ものだな、と一瞬笑みを浮かべたあとゆっくりと眠りに落ちた。
あの夢は見なかった。





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