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□砂が吹かれ、水に波紋を。
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一面に広がる湖に佇む。
深く青い空にきらきらと瞬く白い星と、色のない湖だけのそんな世界に彼はいた。
不思議な事にその湖は、一歩足を進めるごとに赤、青、黄色、紫、緑と鮮やかに色を変えていく湖だった。それはまるで季節の廻りのように。
鮮やかに、自然に。

ふらふらと彷徨っていると、彼は湖に浮かぶ孤島にたどり着いた。大きな木が一本生えた島。
ずっと歩いていたのに疲労を感じないが、一応休憩と言うものをとることにした。

木の影にゆっくりと腰をおろし、彼は体を休めた。
木に凭れかかって体の力を抜く。
星の光と反射した湖の光が彼をぼんやりと照らす。

ふと、顔に木よりも深い影が差した。
上をみれば月を覆う鳥の影がある。
それはとても大きく力強く羽ばたいていて、羽から生まれる風に髪がさらさらと靡く。

あの鳥は確か鷹だろう。
いつしか図鑑であの美しい姿を見たとき、なんと力強く美しい瞳をしているのだろうか、と思った事を覚えている。


鷹に向かって手を伸ばしてみる。
と、鷹が何かを落としていった。

それは橙色のツヤツヤとした果実。
本や図鑑が好きな彼にも、それを何なのかわからなかった。
ただその果実を見ていると無性に喉が渇く。腹が減る。
甘そう。瑞々しそう。美味しそう。

耐えきれず口に含もうとすると、ポツリと空からひとしずく。
それはつぎからつぎへと降ってくる。雨だろうか。

彼は濡れないようにと木の影に隠れる。
しとしととだんだん強くなる雨だが、その雫は何故か暖かかった。
ちょうど良いぬるま湯のような温度。
ずっと浴びていたいが、風邪をひいてしまったら元も子もないと我慢した。

さて果実、と思い手元を見るとそこには果実の姿はなかった。
正確には、果実の原型がなくなっていた、のだ。
雨に濡れた部分からドロドロと溶けている。
彼は急いで溶けている部分をもぎ取って被害を抑えようとしたのだが、果実の中に何か埋まっているものを見つけて、動きをやめた。

果実が溶けるのを大人しく見つめる。

とろりと、最後の果実が流れ落ちた時、手に残ったのは一本の針だった。
鋭く尖り、まるで彼の命を奪う時を狙っていたかのようなその姿。
彼は君が悪くなりその針を湖に投げ捨てた。
すると、針は塩酸に浸かったかのようにブクブクと泡をたてて溶けて消えた。
彼が触れても何も起こらなかったというのに。

あの鷹は俺を殺そうとしたのか?
それとも果実が俺を殺そうとしたのか?

そこで彼の意識は途切れた。




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