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□誰のモノなのですか
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『みーどりまっち!』

来客を告げるチャイムの音に、二階の自室から階段を駆け下りる。
がちゃり、とドアを開けるとそこには見慣れた金髪が立っていた。

『どうしたんだ突然』

『おみやげ持ってきたッス!』

『おみやげ?』

そういって抹茶色の和風な紙袋をずいっと差し出す。

『どこか旅行でも行ったのか?』

『もー緑間っち俺の話ぜんぜん聞いてないんだから!
こないだ、明日から修学旅行に行くよって行ったじゃないッスか!

それで、美味しいお菓子見つけたんで緑間っちにと思って買って来たんスよ!』

そう言えば先週くらいにそんなことを言っていた気がするな、と記憶を呼び覚ます。
黄瀬に開けてみて!と促されて、ガサガサと中身を取り出すと筆文字で生八つ橋と書かれていた。

『八つ橋か、ありがとう』

『いえいえ!
あれ?そういえば秀徳は修学旅行いつッスか?』

『うちは修学旅行はない』

『そうなんすかー、なんか悲しいッスね』

『別にそんなことはないのだよ。
飛行機はあまり好きじゃないからな。
それに八つ橋を買ってきたという事は京都に行ったのだろう?
京都など、行けるわけがないし、行きたくもない…』

『緑間っち…』

思い出したくもない過去の記憶。
愛しいと感じていた赤色の彼と過ごした時間。
楽しいことがなかったわけじゃなかったけれど、思い出されるのは辛く悲しい記憶ばかりだ。
三年経っても俺の中で留まり続け、夢にまで見てしまうほど、彼は絶対な存在だった。

『…緑間っち、実はね、会ったんスよ。
赤司っちに』

『なっ!』

『流石は赤司っちッス。
俺らが泊まるホテル、旅行中の訪問先、日程、移動手段や帰りの飛行機まで全部調べてわざわざ会いに来たんスよ。

それでね、これ、緑間っちに渡せって…。
最初は断ったんスけど…

あ、封が開いてるのは最初っからッスから、中身見たとかじゃないッスから!!』

なるほど、だから黄瀬は修学旅行中俺に連絡を一度も寄越さなかったのか。
黄瀬涼太という人間は、後ろめたいことや心配事があるとギリギリまで言えないタイプなのだ。

でも一度は断ろうとした勇気はなかなかがんばったと思う。

赤司には、あいつの頼み事を断れる人間が居るのなら見てみたい、と思うほどの威圧があるのだ。
特にキセキのメンツはもう過去の話とは言え三年間やつに付き従ってきたのだ、体に染み着いたものが今更抜けるはずもない。

まず赤司のあれは“頼み事“なんて優しいものじゃない。
あれは“命令“。
他人を統べる王から下される命令なのだ。


『黄瀬、すまないな…』

『なんで緑間っちが謝るんスか?
悪いのは俺ッスから…』

『…すまない』

『だから謝らないで、緑間っち』

『でも』

『緑間っち!!!』

黄瀬の怒りを帯びた声にいやでも体がビクリと反応する。
自分が思っているよりあいつに刻まれたものは深く残ってしまっているようだ。
別れた今でも深く、深く、俺の中ではずっと、消えることはない。

『…悪い』

『俺も大声だしてすみませんッス…。
…あ、俺これから黒子っちのとこにもおみやげ届けに行かなきゃ行けないんで、今日はもう行くッス。
家に帰ったら電話するから!』

『あぁ、わかったのだよ』

『それじゃあ。
緑間っち、愛してる』

『馬鹿を言っていないで早く行け』

『酷いッス!』

黄瀬の背中を見届けた後、俺は八つ橋を食べる用の茶を煎れる為、キッチンへ向かった。



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