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□落として拾う
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『何故来たのだよバカ尾』
『何故って、だって真ちゃんがあまりにも遅いからさぁー。
心配になって来ちゃった♥』
そういってウインク一つ。
ヤツの目元に星が見えた俺は相当疲れているのだろうか。
『フン、だからお前は駄目なのだよ』
『真ちゃんひっど!つか訳わかんねぇよ!ww
でもそーゆーとこマジ好きだわーwww
……で、先輩達はなにしてるんっすか?』
突然、高尾の纏う雰囲気が変わった。
先程までのバカみたいに明るい空気から一変、冷たく鋭い、まるで虎視眈々と獲物を狙う鷹のようなそれに、おそるおそるそちらを見やると、今まで見たこともない表情をした高尾がそこにいた。
『うちの大事なエース様にこんな怪我させて…タダじゃ帰さねぇっすよ?』
俺の手の縄を解き終わったそのまま、頬の傷にそっと手を当てがわれる。
その手の体温は暖かいはずなのに、触れられているところから全身に広がる悪寒。
その手をはたき落としそうになる自分の手を必死に押さえた。
『こ、こいつが生意気な口利くのが悪いんだよっ!!』
すると、先程カッターを振り下ろした先輩が震えなから反論する。
その額に浮かぶ汗は恐怖による冷や汗だろう。
すると高尾は一つ舌打ちして、その先輩に一歩一歩近付いて行きその耳元で何かを囁いた。
『ーーーーー』
『…ッ!!!!!!』
少し距離があったので何を話しているかは分からなかったが、その先輩の顔から察するになにか相当な脅しを受けているのだろうと推測した。
『畜生…ッ!!!!!!』
『あっ、おい!?』
『まてよ!!』
高尾が何か言い終わると同時に先輩はものすごい形相で此処を立ち去っていった。
残りの先輩達もただ事ではないと感じたのか、一度も振り返ることなく後を追って行った。
残された俺と高尾。
暫く続いた重い沈黙を先に破ったのは高尾だった。
『ねぇ真ちゃん』
先ほどの声音のままそう呼ばれて思わず肩がビクリと跳ねた。
怖い、高尾が怖い。
『ははっ、そんなビビンなって。
つかそんな怯えた真ちゃん始めて見たわー、そんなにあいつ等のこと怖かったの?
それとも俺が怖い?』
『ち、ちがうのだよ。
というか別になにもビビってなどいない。勝手に決めつけるな』
『ブフッwwそんな震えた声で言われてもマジ説得力ねぇwww
でさぁ真ちゃん、なんで約束破ったわけ?』
約束、とは此処にくる前に交わした 危ないと思ったらすぐ連絡する というあれのことだろう。
だが俺は両手が縛られていてケータイを出す事など不可能だったのだ。
それに指が痛くてそれどころではなかった。
『両手が使えないのに、どうやって連絡するのだ?
それにもし使えたとしても、指を痛めてしまって…』
『指!?真ちゃん指怪我させられたの!?なんで!?見せて!?大丈夫なの!!?』
最後まで言い終わる前に、さっきまでの高尾と一変して今度は突然取り乱し始めた。
なんで、見せて、を狂ったように繰り返して俺の手を無理矢理引っ張る。
『なんだよこれ!何で左手なんだよ!!あいつ等ぜってぇ許さない…殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるッ!!!!』
『落ち着け高尾っ!!
痛いのだよ!!!!』
普段余り大声を出す方ではないが、今回ばかりはこうでもしないと高尾は止められそうになかった。
思いっきり怒鳴りつけると高尾はハッとして、すぐ落ち着きを取り戻した。
『ご、ごめん真ちゃん、おれつい…』
『…今日はもう疲れた。指も痛む。さっさと帰るぞ』
『……うん』
暗い顔をする高尾を連れて俺は体育館倉庫を後にした。
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