short


□落として拾う
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ゴキッ


『ーーッ痛』

刹那、鈍い音がした。
同時に鋭く重い痛みが俺の指にはしる。

指を思いっきり踏まれた。
しかも踏まれたのは俺の命ともいえる左手で。
思いの外痛い。

『お前ナメてんのか?』

ギロリと先程の様子とは比べものにならないような鋭い視線が向けられた。

痛みの程度的にきっと折れてはいないが、指を襲う激痛は酷くなる一方だ。
このままだと、暫くは今まで通りシュートを打つことができなくなってしまうだろう。
肝心の手が後ろにあるため状態はわからないが、きっと腫れている。
左手を踏まれるとは、不覚だった。

そんな俺の思考など知らずに、一気に俺に浴びせられる罵倒。


『ムカつくんだよまじで』

『なにがラッキーアイテムだよ、気持ち悪ぃんだよ!!』


それにしても、いい加減五月蠅い。
その耳障りな声を聞いているのもそろそろ限界なのだが。
指が痛むので家に返して欲しい。

それに、もう一つ気がかりがある。
高尾のことだ。
バカなアイツは、この寒い中教室でどこぞの忠犬のように何時までも俺のことを待っているに違いない。

早く帰らせないとご両親も心配するだろうし、テスト勉強をする時間も減らすことになってしまう。

『先輩、もう気は済みましたか?
そろそろ家に帰りたいのですが』

『…はぁ?何言ってんのコイツ?
つかお前自分の立場わかってる?縛られて転がされて、指だって怪我してて、俺達の方が圧倒的に有利なんだぜ?やろうと思えばお前のこと殺すことも犯すことも何でもできんだぜ?
そんな相手をこれ以上怒らせちゃっていいわけ?』

実にめんどくさい先輩だ。
殺す?だったらカッターなんて小さなものじゃなく包丁でも持ってきてから言え。
犯す?195もある大男の俺を?入れる穴もないのにどうやって犯すのか?
苛立ちがどんどん募っていく。

『…お言葉ですが、あなたが俺を殺せばあなたの人生が台無しになるだけです。
あと先輩より身長のでかい、それも男の俺をどうやって犯すんですか?
これ以上怒って不利になるのは先輩達だと思いますが』

『なっ、んだと!!!!!!』

俺の正論という挑発は、思ったより気が短かったこの人の怒りを最大まで引き出してしまったようだ。
カッターを勢いよく振りかざして俺を睨みつける先輩。
思ったより行動力のある人なのだな、と感心すると同時に

終わった、と思った。

『あっ、おいそれはやばいって!!!』

もう一人の先輩の制止も聞かず、振り下ろされたそれは、思い切り俺の中心に突き刺さるかと思いきや、俺のメガネのツルと左頬を掠っただけだった。
襲って来るであろう激痛に耐えるべく閉じた目をそっと開いてみると、そこには見慣れた黒髪が立っていた。

『なにしてるんっすかセンパーイ?
楽しそうですね、俺も混ぜてよっ!』

聞き慣れた声。
こんな状況なのにいつものおちゃらけた口調はそのままだ。

『……なぜここいる高尾』

そう、そこにいたのは教室にいるはずの高尾だった。






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