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□落として拾う
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テスト前で部活もなく、いつもと違う静寂に包まれる放課後、帰りの支度をしながら高尾と話をしていると、バスケ部の二年生の先輩に呼び出された。
高尾に先に帰るよう告げると、心配だから待ってると言って聞かなかったので、勝手にしろとだけ告げておいた。
途中、一緒についてこようとしたがそれだけは勘弁して欲しい。
危ないと思ったらすぐ連絡する、という約束をして、未だ納得のいかない顔の高尾を放置し指定の場所へ向かった。
『よく一人で来られたなぁ?エース様よぉ』
そこにいたのは三人の先輩。
この人達はことあるごとに俺に突っかかってくる、正直苦手の最上級に位置するような先輩だ。
どうせ態度がでかい、敬意を払え、とかそんな事を言われるのだろう。
別に初めてのことではないので、あぁまたかとため息をつく。
先輩からのお呼び出しは中学生の頃からよくあったことなので、嫌でも慣れてしまった。
『もっとバスケがやってたいなら大人しくしてろよ?』
だから今回も呼び出されて脅しかけられて終わりなのだろうと、そう思っていたのだが…どうやらそう簡単にはいかないらしい。
薄暗い体育倉庫で一人の先輩が俺の後ろに回り込んでいた事に気付かず、縄で後ろ手に縛られて床に無理矢理座らされてしまった。
ニヤリとゲスい笑みを浮かべた先輩は、後ろに隠し持っているカッターをちらつかせながら低い声で脅してくる。
これから自分は何をされてしまうのだろう。
そこでふと、中学時代を思い出した。
そういえば中学時代も何回か呼び出されたことがあるが、手を出されたことは一回もなかった。
バスケの名門帝光中学において、先輩達を差し置いて三年間レギュラーで居続けた俺達に苛立ちを覚える先輩は数知れなかった。
そして、その苛立ちをぶつけるのに一番好都合なのが俺だった。
赤司はもちろん、無駄に体格の良い青峰や紫原を呼び出そうものならまんまと返り討ちにあって逆に自分たちがやられて終わりだ。
灰崎は…御察しの通りだ。
二年生で入ってきた黄瀬は、あの取っ付きやすい性格から案外先輩達ともうまくやれていて呼び出されることは俺ほど多くはなかったらしい。
黒子は一群として認識している人の方が少なかった。
となると、必然的にターゲットは俺に向けられてしまうのだ。
たしかに身長は高い方だが、あまり筋肉が付かなかったのは事実だ。
現に、俺より2センチ低い青峰よりも体重が少しだけ少ない。
それと、俺には愛想というものがなかった。
黄瀬やあの頃の青峰のように無邪気な笑顔など自分でも見たことがない。
そういう点でも他のレギュラーよりも反感を買っていたのかもしれない。
だが、それでも手を出されることはただの一度もなかった。
それは、やはりあの男の存在だろう。
『帝光中バスケ部』という集団の、それもレギュラーというくくりの中にいるだけで赤司の圧力が働いていたからなのかもしれない。
これは予想にすぎないが。
まぁもしそうだとしたら多少赤司に感謝してやらないとな。
過去の記憶を掘り出していると、決まり文句のような言葉が飛んできた。
『一年のくせにチョーシ乗ってんじゃねぇぞ緑間ァ』
『キセキの世代だかなんだかしらねぇけどよォ、すこしは先輩に気使うとかねぇのかよ!?』
またキセキの世代か。
別に キセキの世代 なんて呼び名に特別な感情などない。
いつだか黄瀬も似たようなことを言っていが、 キセキの世代 なんて何処かの誰かが勝手に付けた呼び名であって、俺たちが自ら名乗り出たわけではないのだ。
俺たちからすればいい迷惑だ。
それにしても、テスト二日前なのに勉強もせず、こんな所で一人の後輩を囲んでいるなんて、余程勉強が出来るのか、それともただの馬鹿なのか。
『先輩たち、ずいぶん暇なのですね』
つい、うっかり口に出してしまった本音。
心の声のつもりが、しっかりと音にして発してしまった。
後悔しても、言葉は喉には戻らない。
それが先輩たちの逆鱗に触れてしまったようだ。
続きます。
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