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□#相思相愛
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『なぁ真ちゃん』
休憩中、突然高尾が俺を呼んだ。
『なんだ』
シュート練習を中断してそちらを見ると、高尾は俺に背を向けてベンチに寝転がっていた。
端から見れば別に何ともない光景なのだろうが、俺は高尾の声音一つで、何を求めているのかが分かってしまった。
高尾と所謂 恋人、と呼ばれる関係になってからもうすぐ一月(ひとつき)経つ。
あの頃の俺だったらきっと分からなかったのだろうな、と呑気に考えていると、上体を起こしてこちらを向いた高尾がゆっくりと、言った。
『あのね、真ちゃん、ちゅー、して』
やはり予想通りだ。
しかし、声一つで何を言わんとするのかが分かってしまうなんて。
一体自分はどこまで高尾に染められてしまっているのだろう?
『…あぁ』
望み通り軽く口づけてやると『ありがと』と言ってまたベンチに寝転がってしまった。
高尾は時々、俺からのキスをねだる。
いつもの高尾ならところ構わずしてくる(未遂)のだが、何故だか最近、高尾の様子がおかしいときがあるのだ。
さっきのように突然キスを強請ってきたり、逆に体格差を無視した力で押さえつけ、無理矢理してきたり。
挙げ句、監禁したいとか、首輪付けて飼っていい?だとか、訳の分からないことを言い出す始末だ。
しかもそんなときの高尾は、決まって暗い目をしている。
俺のことをねっとりと絡みつくように見てくる瞳。
そして、そういうときの高尾と目が合うと、にっこりと感情のない瞳を細めて笑うのだ。
正直俺はあの瞳が嫌いだ。
俺を見つめるあの瞳が気持ち悪い。
暗く深い沼のように、はまったら抜け出せないような、そんな瞳が気持ち悪い。
とりあえずああいう状態の高尾には逆らわず従っておこう、と決めているのだ。
理由?
ーーー恐ろしいから、だ。
赤司に言ったらきっと、俺らしくないなと笑うだろう。
けれど、アイツの瞳はそれほどまでに恐ろしいのだ。
『おい、緑間』
いつの間にかシュート練習を再開していた俺に、宮地先輩が声をかけてきた。
『なんですか』
『ちょっとツラ貸せ』
そういって連れてこられたのは部室だった。
『お前、さっきのあれなんなんだ?』
『さっきの?』
『休憩中に…キス、とか』
『宮地先輩には言ってませんでしたっけ?』
『お前等が恋人っつーことは知ってる。
俺が言いたいのはそういうことじゃねぇよ』
じゃあなんだ?
『なにか変なことしましたか?』
『あんな人がいるところでお前からキスするとか、なんつーか…』
『変ですか?』
『変、じゃねぇけどよ…』
そうか、おかしくなったのは高尾だけではなかったのか。
『…いや、いいんです。
自分でもおかしい事なんて分かってますから』
『みど『失礼しまーっす』
『高尾』
その場に似合わない軽い声で入ってきたのは高尾だ。
『高尾、てめぇノックくらいしやが、れ……ッ』
『真ちゃん』
あの宮地先輩が、固まっている。
きっと先輩も″あの瞳″を見てしまったのだろう。
『真ちゃん、ちゅー、して』
『……あぁ』
おかしいのは俺か、高尾か。
(end…)
初投稿がこれでいいのか私。