悪魔屋敷
□4.甘く儚く。
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「彼は強欲の悪魔…知ってますよね?」
コクリと頷く。
「強欲の悪魔、自分の欲しいモノはどんなことをしても手に入れる。自分のモノを壊したり奪われるのは嫌…それくらいなら自分の手で壊す。」
あぁ…
「それが彼です。」
私が"欲しいモノ"なのか…
「彼は自分のモノが壊される事、奪われる事を嫌います。ということは…ケイトに壊される心配は防ぐことが出来ます。」
今までの贄は大体ケイト君が壊す…ダメにしてきたのだった。
ということは、この屋敷での最大の敵を退けられるということか…
「でも…それがなくなっても…私はいつかダメになっちゃうんだよね…?」
それが…私の末路。
「安心してください、私も最善を尽くします。貴女は…私にとっても、失いがたい存在です。」
やっぱり、キャロルさんに気に入られてたんだ…
なんだか複雑な気分。
「あとは、トラテスに任せます。私は…まだ貴女に手出しできませんしね」
クスクスと笑いながら言うキャロルさん…
"まだ"ってことは、いずれは彼にも食べられてしまうのだ。
さっきのは彼が言う"味見"程度なのだろう。
「………。」
俯く私を見て、キャロルさんはそっと頭を撫でてくれた。
「贄に選ばれたことを後悔しないくらい、幸せにしてあげます。」
おもむろに言われた言葉に首をかしげる…
後悔は…まだしていない。
だけど、いずれするのだろう…と、私にはわかっていた。それと同じでキャロルさんにも分かっていたのだろう…堕ちたあと、私が後悔することを。
「貴女にとって…私は害でしかないことくらいわかっています。ですが、私は…そうしないと生きていけないのです…」
なんだか儚げな表情で言われてしまった…
しかし、しかたない…
彼にとってはソレが食事…
天使は一番のご馳走なのだ
「わたし…って、どんなあじ…?」
聞いてみた。
さっき、おいしかったと言われたが…自分は、彼らにとってどうなのだろうか?
一応気に入られている様だが…
「スラポさん…ですか?」
「うん。」
彼は戸惑っている様だった。
私にそれを教えていいのか…
トラテスはすぐそばにいたライオさんに感想を述べていた。
「甘い…です。」
唐突に言われた言葉…
「あまい…?」
意味がわからずに首をかしげる…
初めて合ったとき…トラテスにも言われた。
「今までの女性の中にも何人か甘い方はいました…けれど、貴女はその誰よりも甘く、そして美味しい。」
甘い…自分が食べていて甘いもの…
お菓子、思い付く殆どが甘い甘いお菓子だった。
「私は、お菓子?」
首をかしげながら問いかける。
「御菓子…ではありません。あくまで、私達のご飯です。しかし、辛かったり苦いよりも…あまいほうが食べたいでしょう?」
人差し指を口に当てて、そのポーズはなんだか魅力的に見える…
「美味しいのが好き…」
小さく呟けばキャロルさんは小さく笑う…
「貴女方天使とは相容れないことくらいはわかっていますよ。主に…価値観、とか。」
どこか悲しそうに言う…
そういえば彼は時々、悲しそうな顔をする。
何かあるのだろう。
今の彼はなんだか儚げで…私が面倒を見てあげる側な、気がする。
「でも…根本的には同じです。私達も…貴女も」
なんとなく、私ではなくて自分に言い聞かせるような感じに聞こえた…
「根本的?」
「はい♪」
私が尋ねると、彼は話しかけられたのが嬉しかったか笑顔を見せた。
「私達悪魔も…貴女方天使も…生きたいという気持ち、本能は変わりません。」
「本能…」
それは…
変わらないかもしれない…
でも、その本能の塊…
人間という種族の本能から生まれた欲望、そして罪…それが彼ら悪魔を生んだ。
となると…
神様が造り出した私達天使と人間…その悪意、欲…裏側の部分が悪魔ということになる…
私達は…正反対で、どこか似ているのかもしれない…
「さて、お疲れのところすみませんでした…楽しいひとときをありがとうございました♪」
ベッドから立ち上がるとにっこりとした笑顔で笑いかけられた。
やっぱり…優しいヒトなんだ…
そのまま一礼して、彼は立ち去った。
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