悪魔屋敷
□4.甘く儚く。
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「…私です。」
聞こえてきた声はここに来たときからずっと聞いていた声…
「どうぞ?」
許可をすると入ってきたのは見慣れた顔。
「こんにちは、今日は遅いお目覚めですね」
いつもの笑顔と共に入ってきたのはお世話係のキャロルさん。
「どうしたの?なんか用事かな?」
眠たい目を擦りながら首を傾げる。
すると、ベッドのすぐ近くまで来て足元を指しながら「ここ、いいですか?」と聞かれたので、特に気にしていない私はコクリと頷く。
なんだろう…うつむいて、いつもより元気がない気がする…
「あの、スラポさん?」
「なぁに?」
顔をあげたキャロルさんの顔はとても寂しそうに見えた…
「いえ…その…」
なんだか泣きそうな表情だ…
抱き締めてあげたくなって…思わず手を伸ばした。
「スラポさん…」
そのまま胸のなかに収まったキャロルさんを抱き締めてあげた。
よくよく見ると本当に泣いていたらしい。
頭を撫でてあげると落ち着いた様子…
「ごめんなさい…いきなり…」
いままで見たことのない彼の一面に少し驚いたが、それと同時に彼との仲が深まった気がした…
「それでキャロルさん…なんの用事があったの?」
「あぁ…」
すっかり落ち着きを取り戻し、私の元から離れた彼はベッドに腰掛けたままニッコリと笑う。
「今日は貴女を軽く頂きに来たのですが…その前に私がダメになってしまったようです…」
苦笑しながら言うが、その口から発せられた言葉は私が聞きたくなかった言葉…
「私を…食べに…?」
昨日のことが蘇る…
そうだ…
キャロルさんは色欲だ…!!
「や、やだ…だめ…!」
まだ嫌、だ…よ…
カタカタふるえる私の首もとにそっと手を伸ばす…
「一口目は、トラテスなんですね。安心しました…」
恐らく…
一口目の印とやらがそこにあるのだろう…
「私も、軽く頂いていいですか?」
私は全力で首を振った。
さっきもいった、私はイヤ!!
「あの、少し…キスもしないし、身体もヘタに触りません。ただ少しだけ…トラテスの様に首筋を…舐めさせてもらうだけで、いいんです!」
なんだかとんでもない要求をされているようだ…しかしながら私はめげない…
嫌なものは嫌なのだ。
「だ、だめですか…?」
こ、この顔…
寂しそうな表情…
私はこれに弱い。
「ほ…ほんとに少しだけ…?」
恐る恐る聞いてみた…
ふるえる私の身体を見て彼も多少気が引けたのか頭を撫でながらそっと言う。
「えぇ、ほんの数秒です」
寂しそうな瞳の奥に見える真剣な表情…
そっか…キャロルさんにとってはこれが食事なんだ…
私も、ご飯が食べられないと苦しい…
「少しだけ…なら、いいよ?」
その言葉に目を輝かせてがばっと抱きついてきた。
な、なんだろうこれ…
あのキャロルさんだとは思えない…
「で、では少し…いただきますね?」
嬉しそうに、無邪気な笑みを見せれば彼はトラテスに噛まれた首筋にそっと口を付ける…
「ぁ…」
トラテスとは違って、味わったことのない淡くくすぐったい感覚…
首筋を舐められれば思わず声が出て、身体がピクッと跳ねる。
「ん…っ…ぁあ…!」
自分でも出したことのない艶かしい声が出ている…
「んはぁ…御馳走様でした♪」
息を荒げる私と裏腹に、ピンピンしているキャロルさん…
「はぁ…はぁ…」
なんだかよくわからないけど…
くすぐったかった。
「少し、感じちゃいました?」
キャロルさんがクスクスと笑いながら言う。
なんのことなのか私にはわからない…
「………。」
押し黙っているとそっと頭を撫でられた。
「突然ごめんなさい。しかし…とても美味しかったです♪」
満足そうに笑う彼…
そういえば…
キャロルさんも、トラテスが私を食べることに関して…賛成のような素振り、発言をしていた。
それはなぜ?
「ね、ねぇ…?」
まだ少し息の乱れている私の頭を撫でながら彼は、なんです?と首をかしげる…
「なんで…私がトラテスに食べられるのがいいことなの?」
聞きたい。
あんな痛い思いをしてまで…
私になんの特があるのか。
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