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□『明日』に繋ぐ手
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「前はゥン百年待ってたんだろ?今回も待ってやらなきゃ駄目だろうが」
何も言えずにいるロボットの頭に、ボンと手を乗せて声をかけた。
こいつが、永い時間待ち続けて再会した二人は、またこいつの元を去って
今度はどのくらい待たされるのだろう?
数年で済むのか、また数百年かかるのか、それとも─…
「なに、すぐに戻ってくるさ…」
保証もない言葉で、その先の考えを打ち消す。
無責任な言葉で慰めたのは、こいつか、それとも自分か
「…─待ってやっててくれよ」
「俺の分までよ……」
震える
小さな声で言った。
歳をとりすぎた、と思う
どんなに希望を持とうとしても、諦めの方が頭を過ぎって
二人が目覚める時まで、自分は生きているとは思えなくて。
二人に会えないのが悲しいんじゃない
二人を迎えてやれないのが悔しくて堪らなかった。
ガキ二人がようやく目覚めた時、帰ってこれる場所が、人がいなかったらと考えると
それが堪らなく悔しくて、腹立たしくて
「待っててやってくれよ─…」
誰でもいい
ロボットでもいい
やつらを、二人ぽっちにしてやらないでほしい。
二人しかいない寂しい世界にいたあいつらに
俺たちが伝えきれなかったことを伝えてやってほしい。
今も、
旅の中でさえ、
いつだって二人っきりだった。
他の一切の温もりを諦めて、二人だけの世界を選んで。
そんなあいつらに、教えてやってほしい
二人っきりなんかじゃない
もっと大きな、あたたかな場所があることを。
待っている仲間がいるのだと
帰る場所があるのだと、教えてやってほしい。
俺は
きっと俺には、叶わないから
……─ヴヴ…
…─ヴィー…ン─…
強くなった唸り声に、いつの間にか固く閉じていた目を開ける。
目の前では、動けずにいたはずのオンボロが苦しそうに動きはじめていた
壊れかけた腕を、脚を、
もがくように、足掻くように
ぎこちなく、でも必死に動かして。
その姿はまるで、まだ自分はここにいるのだと
ここで、まだ二人を待っていられると主張しているようで。
──お前はもうあきらめるのか?──
そう言われた気がした。
「…─この歳になると弱気になっていけねぇな」
無理に笑って、その姿に応えた。
苦しそうに動いていたオンボロは、プスンと音をたててまた動かなくなってしまった。
「待ってろよ、今直しちまうからな」
そう言って、ようやく修理にとりかかる。
待ち続けて、壊れて
何度壊れたって、待ち続けて。
自分よりも、古ぼけたロボットの方が数倍強い想いを抱いていたと思い知る。
『まだあきらめるのは早い─…よな』
俺も見習わねぇとな、と思いながら、いつも以上に修理に力を入れた。
待ち続けて、こいつとここで
二人の帰りを。
『すまねぇな、サッズ』
あの時の二人の顔を、今でもよく覚えている。
今度はきっと、明るい笑顔で言ってくれたら
「また会えるさ」
言い聞かせる
自分に。
壊れかけた二人の友達に。
慰めなんかじゃなく、誓うように。
『必ず会えるさ』
言い聞かせる
弱い自分に、強くあれと。
強い想いは力になると、旅の中で何度も唱えた。
それはきっと、今も同じはずで。
強く願って、この手に込める。
二人が帰ってきた時に、迎えてやれる自分達の未来を。
壊れたって、何度でも、何度でも。
今、ここで作る未来が、あいつらの笑える明日に繋がればいいと。
end
アトガキ
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