BC

□アタラシイセカイ
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一階のロビーの端へ─…



たしかルードにそう言っていた。



既にひとつ置いてあるからすぐわかるはずだ、とも。





チン、と音がしてドアが開く



一度置いたデスクを持ち上げ、エレベーターに乗り込んだ。





肩が外れそうなほど、重い




たしかこのデスクの主は、事務作業なんていつもサボって


寝る為だけにしかデスクを使っていなかったくせに




いなくなってまで迷惑な野郎だな、と


思って、すぐに打ち消す






やめろ




忘れろ






わかっていた



あいつらがいつかいなくなるなんて、わかりきっていたことで





この流れに抗おうと決めた



だが


その術も無かった





何も特別なことじゃない。



いつもと、まったく同じ




当たり前のこと。





何も変わらない




自分に言い聞かせる



また忘れるだけだろ、と






一緒にいた時間が、少し長かっただけだ



覚えた名前が、少し多かっただけだ



共にこなした任務が、少し多かっただけだ




ただ、それだけのこと






全ては進んでいく


全ては変わっていく




いなくなったから、切り捨てて、進む



それだけだ。





当たり前で



いつも通りで





アタラシイ体制、アタラシイ人員





また、その波に飲まれるだけで





言い聞かせる




誰のせいでもない




ただ、繰り返すだけ。




何度も、自分に言い聞かせる。








チン、と音がしてドアが開く




一階のロビーの端



黒い影を見つけ、踏み出す






言い聞かせる、




いつも通りだと




ただ忘れて、進んでいくだけだと。





この、デスクと同じように



過去として、消していくだけ




忘れていくだけ








肩は、外れそうでも、


手は一度も離さなかった。





一階のロビーの端




あいつらの記憶ごと、

あいつらと過ごした時間ごと



全て消してしまおうと辿り着いた場所には






主任の






ヴェルド主任のデスクがあった。








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