侍7よろず話

□一縷の望み
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一縷の望み 1

野伏せりとの一戦を前に人々はそれぞれに忙しく動き回っていた。
サムライたちはもちろん‥‥農民も村を守るための戦を始めるべく準備に追われていた。いくつあっても足りない人手。
女子供も総出で鏃(やじり)になりそうな石や、弓矢に使えそうな木を探すなど、カンナ村全体が慌しい空気に覆われていた。

「子分はでっけぇな。どうしたらそんなにでかくなれるんだ?」

コマチとオカラは飯を炊くための薪拾いを任されていて、それぞれその小さな背中には大きすぎる背負子を背負っていた。
その背負子に薪を満載にしてひいひいと汗をたらしながら森から出てきたところ、ちょうど集落の方に伝言を伝えるために戻るキクチヨに出会ったのだ。

「ああーん?そりゃお前‥‥たくさんメシ喰っていっぱい体動かしてりゃそのうちこんなになるぜ。」

幼い子供には大きすぎる背負子もキクチヨにかかれば片手で持てるほどの物でしかない。重そうに運ぶ子供たちを不憫に思ったのか、その荷を手に持ち両肩にコマチとオカラを乗せて大股で歩くキクチヨの姿は、二人にとっては頼もしく思える存在であった。

「コマチもいっぱい食べておっちゃまくらい大きくなるですよ。そして野伏せりをやっつけてやるです。」

コマチが鼻息を荒くして拳を上げる。

「コマチ坊、お前が戦うことはねぇんだ。そういうこったぁオレ様がすべてやってやるからよ。オレ様に任せて置け!」

キクチヨが蒸気を上げながらコマチに言う。

「シシシ‥‥コマチがおめえさんくらいデカくなったら色気もへったくれもないもんだな。」
「なっ!!ガキがそんなこと言ってんじゃねぇよ。ホラしっかりつかまってろ!走るぞ!」

ちょっと照れたのか機械の体ではなんともわからないがキクチヨは二人を乗せて走り出した。

彼らが立ち去ったあと‥‥木の陰から人の気配がひっそり消えたのを知らぬまま‥‥。
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