カンナ村療養シリーズ

□豆
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豆 2


「キュウゾウ殿は‥一体おいくつなんでしょうか?」

ヘイハチが療養している家に顔を出したとき、カツシロウはそんなことをふと口にした。
そこにはシチロージが油を売っていて、先程コマチがもってきた節分用の豆をつまみながら暖をとっていた。
シチロージも全身に傷を負っている。
命に別状はないにしても、肩口の傷は冷えると攣れて痛むこともあるのだ。

「そういえば‥‥キュウゾウ殿は年齢不肖なところがありますね。」

ヘイハチはキュウゾウの姿を思い浮かべながら茶をすすった。

「まあ‥‥大戦を経験してるってぇと‥‥ふーむ‥‥たぶん若く見積もっても今は二十代後半じゃないですかい?さすがに当時十代前半のような幼い小童を‥‥熾烈だったあの戦地に行かせたりはしないでしょう。」

ヘイハチとシチロージの脳裏に、己が身をもって体験した十年前の大戦の記憶が蘇った。
そんな二人の様子を見て‥‥戦の経験のないカツシロウはそっと唇を噛んだ。

「なら‥‥本人に聞いてみなさるのが、手っ取り早いのでは?」
「しかし‥‥。」

カツシロウからは聞きづらいことではあった。
第一‥‥カツシロウはまだ自分は許されていないと思っている。
咄嗟の出来事とはいえ‥‥おのれの未熟さからキュウゾウを瀕死の状態に追い込んでしまったのだ。
それについてカツシロウはまだキュウゾウに許しを請うてなかった。
そんな簡単に謝るぐらいのことでは済まされないほどのことを、自分はしてしまったのだと言う負い目に苛まれているせいらしい。
それに‥キュウゾウはあの戦で声を出すのが辛いほど喉を傷めていた。
ただでさえ無口だったキュウゾウだが、今は必要なこと以外ほとんど口を開かない。
だからそのような問いに答えてくれるとは思えなかった。

そのキュウゾウだが‥‥カツシロウの献身的な介護もあって瀕死の状態からようやく回復しつつあるらしい。
短い間ならば支えられて体を起こすこともできるようになった。
医者の話ではわき腹の裂傷やかなり痛手を蒙っていた内臓はほぼ完治したらしい。
大量の失血によって貧血気味の体だが、徐々に力のつく食事で栄養を摂って体力をつけて‥‥失われた筋力や、ひどくやられている右腕などの神経組織の再生のための治療的回復訓練をすれば‥‥元のように動けるようになる可能性もあるということだった。

カツシロウの気持ちを感じ取ったのか‥‥こちらも満身創痍から回復しつつあるヘイハチが、シチロージのつまんでいた節分用の豆をもらいそれを弄りながら言った。

「そうだ‥‥良いことを思いつきました。これから一緒にキュウゾウ殿のところに参りましょう。」
「ヘイさん?‥‥何を思いついたんです?」

シチロージが尋ねると、ヘイハチが任せなさいと言わんばかりの笑顔を見せた。

「まあ‥‥見ていなさいって。」
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