ボウガン男の回想

□出会い
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出会い

やられた‥‥!!

そう思った。
現に右腕の感覚はない。顔もどうやら何処か切られたようだ。片目の視界はすでに紅に染まっている。
激しい痛みだけが俺の意識を闇に葬りさるのを防いでいるだけだ。
長引く壮絶な戦の最中、生身の体でここまで切り抜けてきたというのに‥‥俺もこれで終わりか‥‥。

そう思うとなにやら全てが馬鹿らしくなってくる。
おそらく次の一撃が俺の終焉を告げるだろう。
それをただ待つ‥‥その瞬間までが長く感じられる。

じれったいな‥‥とどめを刺すのなら一息にやってくれ‥‥。

俺は‥全身の力を抜いた。

だが次の瞬間聞こえたのは相手の断末魔の叫び声とそれに呼応するが如く体に降りかかった生暖かいぬるっとしたもの。

残る片目でようやくそれが相手の体から噴出した血潮だという事がわかったとき‥‥ふと‥‥風を感じた。

そして目の前によぎる紅いもの‥‥。

片目を塞ぐ自分の血のりでも跳ね返った相手の血でもなく‥‥それが紅く冷たい瞳だと気がつくのにも時間がかかった。

激痛が己の思考を止めてしまったのだろう。
ようやくその紅い瞳の持ち主を認めたとき、奴は金色(こんじき)に輝く美しく長い髪を翻して言った。

「おい桃色。立てるか。」
「なっ!!」

いきなり桃色と呼ばれてこんな状況でも腹が立ったが、奴が助けてくれたのだろう。両の手に握られた冷たく光る刀にはべっとりと赤黒いものが付着していた。

「‥あ‥助力‥‥かたじけない。」

立ち上がろうと苦心しながら俺が礼を言うと、奴は背を向けてあたりを見渡した。

「立てぬのならそこの物陰に隠れていろ。まだ敵がいるかもしれぬ。」

俺は痛みに強い。だが流れた血の量が多かったのだろう。体がフラフラとするのは‥‥自覚はないがそれだけ危険な状況らしい。
戦場ではそんなことも案外冷静に受け止められる。
命など‥‥惜しくはない。

「まだ‥‥戦えるぜ。」
「無理だ‥‥お前の腕は失われている。」

奴に言われてやっと右腕の激痛とそこから先の感覚のなさの原因に気がつく。
どうやら最初の一撃を顔面に受けたあと、一瞬気が遠のいているうちに右腕を切り落とされたらしい。

「足手まといだ。この辺を片付けたら大本営に運んでやる。それまで己の才覚で命を永らえろ。」
「てめぇ‥‥。」

命の恩人とはいえ‥嫌な奴だと思った。

だが‥目の前に繰り広げられる奴の戦いっぷりは‥‥。
一寸のよどみのない流れるような太刀裁きに‥‥この世最上の舞い手と見紛うばかりの美しい動き。

「すげえ‥‥。」

素でそう思った。
何処かで見た‥‥あの顔に記憶があった。

腕を無くした激痛に苛まれながら、俺は懸命に思い出した。

ああ‥‥たしかあのヒョーゴの相方‥‥だったな。

名を確か‥‥

キュウゾウ‥‥とかいった。

敵と切り結ぶキュウゾウがちらりと俺のほうを見た。

紅い瞳

俺は‥‥奴の紅い瞳に飲み込まれていく‥‥そんな錯覚に陥った気がした。

結局奴が全ての仕事を終えるまで‥‥俺は身動き一つ出来なかった。

それが‥‥俺が奴を認識した最初だった。


2007年4月15日
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