侍7よろず話
□キュウゾウの趣向
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キュウゾウの趣向1
「シチロージ殿!ヘイハチ殿!差し入れを持ってまいりました!」
カツシロウの声が静かな森の中に響く。
今は戦に備えサムライたちは各自忙しく働いている。
シチロージはカンベエの指示を村人に行き渡らせるために、朝から村のあちこちに足を運んでいたし、ヘイハチはなにやら細かく書き込まれた設計図らしきものを左手に持って忙しそうだった。
偶然森の中で行き当たった二人が言葉を交わしているときに、村の娘から差し入れを預かってきたカツシロウが、危なっかしく木の盆を持ちながらやってきたのだ。
「村の娘さんたちのお手製ですね?これはまた美味そうだ!」
「うれしいねえ。疲れがたまっているときは甘いものに限りますな。」
盆の上にはあんこたっぷりなおはぎが山盛りになっていた。
日頃、ほたる飯しか口にすることが出来ない農民たちにとって、粟・稗そして豆類は大事な食料のひとつなので、別に栽培して貯蔵している。
「しかし‥‥良く砂糖があったのもので?」
「年に二度のお彼岸のためだけに街から仕入れるそうです。このときだけはこの村でももち米を口にすることが出来るとか。」
嗜好品である砂糖は農民にはかなり貴重品なのだ。
甘いもの好きのヘイハチが手を伸ばした。
「では大事に心してありがたく頂きましょう。では‥‥うん。‥‥甘味がしつこくなくてちょうどよい塩梅で‥‥どの娘さんが作ったのか‥‥なかなか筋がよろしいじゃないですか。」
「どれ‥‥アタシもひとつ。うん‥‥蛍屋で出せるほどの腕前ですな。あとでどの娘さんの手によるものか聞いてみましょう。ヘイさんは興味あるんじゃないですかい?」
「いえいえ‥‥私が興味があるのはこのもち米のほうで‥‥娘さんなら‥‥むしろ若いカツシロウ君のほうが‥‥。」
「わ‥私はさ‥サムライとして一人前になるまではそのような女人に興味を持つなどと‥‥。」
カツシロウが一瞬の間に頬を真っ赤に染め上げる。
「ほう?そりゃホントですかね?そういや‥‥キララ殿にもご執心のように見受けられたが‥‥?」
「し‥シチロージ殿!!」
純真なカツシロウはシチロージにとってからかい甲斐のある相手のようだ。
そうしている間にも黙々と食べ続けていたヘイハチは、早くも二つ目に手を伸ばしている。
「ああ‥‥もちろんあんこも美味しいですが‥‥やはりもち米も美味しいですね。やはりカンナ村の米はどれも最高ですよ!」
その時森の中を赤い陰がよぎった。
「おや?あれはキュウゾウ殿か?」
シチロージがキュウゾウに気がついた。
キュウゾウを尊敬しているカツシロウが、すかさず嬉しそうに声を掛ける。
「キュウゾウ殿!差し入れです!こちらにいらっしゃいませんか!」
キュウゾウはちらりとカツシロウたちを見たが、すぐに視線を戻し一言‥‥。
「いや‥‥見廻り中ゆえ‥‥」
「そんなこと仰らずに!!村の娘さんたちが作ったおはぎがありますよ!」
ヘイハチの言葉にキュウゾウの足がぴたりと止まった。