侍7よろず話

□美しきもの
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美しきもの 1


雨の降るある日のこと。
交代で見回りに出ているカンベエとゴロベエとキクチヨ以外の4人がリキチの家にいた。
それぞれがこれから起きるであろう戦のために、己の武具を手入れするのに専念していた。
いつもは大抵屋外にいるキュウゾウも、珍しく屋内にて皆と同じく愛刀の手入れをしていた。

自分の運命を左右する刀。
キュウゾウはただでさえ人よりも入念に手入れをする。
サムライの心というべきその相棒を自分で手入れするのは当然なのだが‥‥二刀流のキュウゾウの場合それが2本もある。
いかに手際が良くても時間がかかるのは致し方ないだろう。

そんなキュウゾウの手元を手入れが終わったらしい若いカツシロウは、瞳を輝かせて見つめていた。
サムライとは何か‥‥どうあるべきか‥‥。
先日のキュウゾウのめざましい働きを目の当たりにして以来、サムライの塊のようなキュウゾウを観察することは最近のカツシロウの日課になっている。

それに気付いているのかいないのか‥‥黙々とキュウゾウは刀の手入れをおこなっていた。

そのキュウゾウが視線を感じてふと‥顔を上げたとき‥‥視線が絡み合ったのはカツシロウではなくヘイハチであった。

「何か?」

不審に思ったのかキュウゾウが尋ねた。

「い‥いやぁ‥‥キュウゾウ殿の髪はかなり顔にかかっておられるが‥‥戦の時は不自由はしませんか?私も中途半端な長さですが、帽子で顔にかからないようにしているんでね。」

急に視線が合ってしまってなんとなくうろたえた風のヘイハチが、照れたような顔をして言った。

「そういえば‥‥サムライは大抵ゴロベエ殿のようにさっぱり短くするか、アタシのように伸ばして髷を結うかしてますな。」

ヘイハチに賛同するようにシチロージも話に加わった。

「わ‥私もうしろにむすんで‥‥」
「特に障りはない。慣れている。」

カツシロウも会話に加わろうとしたが、キュウゾウの他意のない返答に消されてしまった。
サムライとしてまだまだなカツシロウはすごすごと引き下がった。
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