カンナ村療養シリーズ

□カンナ村のお正月
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カンナ村のお正月 1


季節は正月。
大晦日から降り続いた雪が膝まで積もり、あたり一面銀世界となっていた。

カンナ村でも今年は平穏に正月を祝うことが、出来て皆喜びに満ちた顔をしていた。
それもこれもこの村のために立ち上がった七人のサムライたちのおかげである。
思い返してみれば‥‥実にし烈な戦であった。
あの戦で命を落とした者‥‥たしかにいたように見えたのだが‥。
まあいろいろな諸事情により‥‥実は皆生きていた。
その辺の詳しい話は後日説明するとして、村人たちはこのサムライたちを救世主として崇め奉り、いつまでもここにいてくれることを望んだ。

サムライたちは複雑な顔をした。

彼らは‥‥サムライである。
それゆえこの平穏な農村で生涯を終えるような道を選ぶ気にはなれなかった。

村人たちにも彼らがいずれ旅立つことになるであろうことはわかっていた。
だが身を粉にしてこの村を守ってくれた恩を返したい。
ならばせめて‥‥今はただ、生き延びた7人のサムライが、傷ついた体を癒しながらカンナ村で平穏なひとときを過ごせるよう気を配ることが、彼らへの恩に報いる一番の方法だと考え今日まで至る。

実際よくぞ生きていたという者たちばかり。
ヘイハチは長い間床上げできなかったし、キュウゾウはまだ体すら満足に動かせない状態である。体がほとんど吹っ飛んでいたキクチヨは、虹雅渓からマサムネを呼んで少しずつ修復してもらっていた。まだ体が思うように動かないのが少し不満のようだが‥口ばかりはとりあえず元気である。
先に戦列を離れたゴロベエも長く眠りに就いていたおかげでさまざまな勘が鈍っているし、キュウゾウを誤って撃ってしまったカツシロウはせめてもの贖罪とばかりに重症人の世話を焼いている。
カンベエそしてシチロージは傷は比較的軽かったにせよ、ともに戦った仲間を置いては旅立つことも出来ずに、彼らの面倒を見ながら村の警護を行っていた。世の中は都がなくなってまだ間がなく、治安については油断できない情勢であったからである。

「カツシロウ。」
「あ!先生!」

呼ばれてカツシロウが頭を上げると、そこにはカンベエが立っていた。
カンベエの服は白だと思っていたが、背景に新雪を持ってくるとやはり黄ばんでいるような気がする。

「先生!あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。」
「ああ‥‥こちらもな。そなたにこれをやろう。取っておけ。」

ニューッと差し出された石の様なもの。

「砥石‥‥でしょうか?」
「そうだ。サムライの心得として刀の研ぎ方を極めておくのだな。」
「サムライの心得‥‥あ‥ありがとうございます!!」

あの戦では大きな過ちを犯したカツシロウだったが、カンベエにサムライと言われ涙が出るほど嬉しかった。
カツシロウはもらった砥石を大事そうに懐にしまった。

「冷たっ!!」

肌に直に触れた石の冷たさに肝を冷やしていると、また声を掛けられた。

「探していたんですよ。カツシロウ君。」
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