三途の川シリーズ

□路
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ずっと続く一本道。前方に微かに見える灯りを目指してひたすら一人歩く。
あたりは真っ暗な闇。
この道を一歩踏み外せば‥‥どうなるかわからない。

「‥‥ん‥‥」
「おや?」

後ろから微かに感じた気配でヘイハチ振り返るとそこには‥‥。

「何故あなたが後ろから来るんです?てっきり先を行っていたかと思いましたよ。キュウゾウ殿。」
「‥‥何故(なにゆえ)‥‥そう思う?」
「そりゃ‥‥あなたが吹っ飛ぶところをカツシロウ君が見てましたし。私もそのそばに居たのでね。」
「‥‥そうか‥‥。」
「後ろから来るって事は‥‥あの時は生き延びてたんですね?それが何でここに居るんです?」
「‥‥カツシロウの銃に当たった‥‥。」
「それは‥‥裏切り‥ですか‥‥。」

その言葉に敏感なヘイハチは気色ばんだ。

「違う。仲間を助けるために撃った弾が、敵の体を貫通して俺に当たった。流れ弾‥‥みたいなものだ。」
「‥‥そうですか。それにしてもあまり感心しませんね。カツシロウ君はあるときからちょっとひねてしまいましたから。それと‥‥生粋のサムライが刀ではなく慣れぬ銃を持って戦うなど‥‥。」
「戦場(いくさば)ではきれい事ばかりは言っていられぬ。」
「まあ‥‥もう私たちには終わってしまったこと‥‥ですからね。」
「‥‥ああ‥‥。」

沈黙が落ちる。

耐えられなくなったのはヘイハチのほうだった。

「キュウゾウ殿は‥‥心残りは無いんですか?」
「心残り?」
「やり残したこととかですよ。」
「‥‥島田カンベエとの勝負がついてない。」
「ああ‥‥なんかそんな約束してましたねぇ。」
「戻る。」
「‥‥‥え?戻る??だっ‥だめですよ!!」
「?」
「そういう決まりなんです。私もあなたも‥‥もうこの世の人ではないのですよ。」
「‥‥‥。」
「不満そうですね。大丈夫ですよ。そのうち否が応でもあちらからこっちに来ますって。」
「今際の際にそのようなことは言っていたが‥‥。」
「まあ‥‥いつになるか判りませんけどね。」

《カンベエ殿は負け戦ばかりといいながら案外生き残るタイプみたいだし‥‥もしかしたらこちらに来る時はかなりお年を召しておられることになってるかもしれないけど‥‥。》

と‥‥こっそりヘイハチが独白していると、キュウゾウが自分の顔をジーっと見ていることに気がついた。

「私の顔に何か?」
「お前は。」

どうやら聞かれたから聞くのが礼儀と思ったらしい。

「私?ああ‥‥やり残した事といえば‥‥そうですね‥。」
「‥‥。」
「やっぱり最後に腹いっぱい米喰いたかったですね。」
「‥‥米?‥‥。」
「ええ‥‥米です。私は米大好きですから。」
「‥‥。」
「あれ?もしかしてあきれちゃってます?」
「‥‥いや‥‥。お互い心残りがあるのだな。」

ヘイハチは内心かなり驚いていた。
キュウゾウがこんなにたくさん言葉を発するのを初めて聞いたからだ。勿論キュウゾウレベルでだが‥‥。

《同時期に命を落とした‥‥役得ですかね?》

なんとなく素直に喜べないことを考えながら今来た道を振り返る。

「カンナ村はどうなりましたかね。」
「‥‥奴らがいる。大事無いだろう。」
「見届けたかったですね。」
「‥‥。」

沈黙が再び二人を包む。

「じゃ‥‥参りますか?どうせこの先一本道のようですし‥‥一緒に行きましょう。」
「‥‥ん。」
「一人より二人のほうが何かと心強いし。何せ初めて来る所でしょう?」
「好きにしろ。」
「了解。」

そして少し名残惜しそうにヘイハチはもう一度振り返った。
それにつられて少しだけキュウゾウも後ろを意識した。

「皆さん!お先に!」
「早く仕事終わらせろ。島田カンベエ。」

そうしてヘイハチとキュウゾウは共に黄泉路を歩き出した。

2006年11月7日
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