dream■mid_Dofla_modern parody

□桃色背徳事変
2ページ/5ページ





『体調が悪いので、暫くバイト休みます。

オーナーとも当分会えません。

ごめんなさい。』


滅多にしない、いや初めてのドフラミンゴさんへのメール。

お互いメールが面倒な性格で、これまでの連絡は常に電話だった。


バイトでしかも仕事など実質無いとはいえ、一応店には電話を入れてベラミーにも同様の内容を伝えた。


「マジかよ、そんなに悪ィのか…大丈夫か?」


いつもの憎まれ口を引っ込め、心配してくれている言葉に少しだけ癒やされた。


多くを説明しないまま、とりあえず良くなったら連絡するということで折り合い安堵する。


「…さすが適当職場。」


フッと空笑いをしてスマホを切りながら、私は部屋の隅に体操座りで蹲った。


今日見た光景が、残酷なほど鮮明にフラッシュバックする。


「…悔しいけどサマになってたな。」


映画みたいに妖艶美女を侍らせた不遜な大男は、憎らしいほどそれが似合っていてとても格好良かった。

こんなときにまで、そんな感想を抱いてしまう自分に苦笑が漏れる。


…私、自覚してたよりずっと、ドフラミンゴさんのこと…


「…おや?」


パタパタと、膝を抱える腕に落ちてきた雫。


「………嘘だぁー。」


あまりの自分らしく無さに無理やり笑おうとしたが、上がることに失敗した口角は力なく重力に従いまた落ちてくる。



始めは本当にセクハラ変態オーナーだとしか思ってなかった。

徐々に好意を示され、邪険に躱していたけれどもいつの間にか惹かれていた。


付き合ってからは、あんなに裏権力があって際立った容姿で大人で百戦錬磨な男が、私なんてすぐに飽きるのではないかと不安なこともあった。

だけどドフラミンゴさんはいつも、私を大事にしてくれていた。


「多分、あれは心変わりとかじゃない…。」


見るからに遊び女だったし複数だったし、他に好きな女ができたとかそういう類のものではないと思う。

それがわからないほど子どもではない。


だけど、恋人が他の女と関係を持ったことを一笑に付すほど大人にもなれない。


「あー、もう…一人で考えてたってどうしたらいいかわかんない!!」


遂に限界に達した私は、散々流した涙をごしごしと拭くと、ある考えを思いついてスマホに手を伸ばした。





名無しさんからの体調不良の連絡を受けたその夜。

店を閉める直前、突然荒い音を立ててオーナーが現れた。


「おい、名無しさんから連絡あったか?」


見たこともないような余裕の無い顔をしているドフラミンゴに、ベラミーは戸惑いながらも頷いてみせた。


「あぁ、体調悪ィとかって…詳しく聞いても答えなかったんだが大丈夫なのか?」


当然ドフラミンゴには詳細説明があっただろうと踏み、問うような視線を向ける。


「わからねぇ…、

簡単なメールだけ来たが、何度電話しても出ねぇ。

お前何か聞いてねぇか?」


想定外の応酬に瞠目して首を横に振ると、サングラスの間に深い溝を作り険しい思案顔をしている。



「まさかドフラミンゴさん…、

名無しさん孕ましたとか…身に覚えないんスか?」


ありそうな展開を予測したが、ただ一瞥され冷静に返された。



「ヤったこともねぇモンはデキようもねぇだろ。」


言い捨てて即座にまた店外へと去って行く敬愛するボスの後ろ姿を、絶句しながら見詰める。



「…………マジかよ………

あの人が自分の女にまでしておきながら手も出してねぇだと………?!あり得ねぇ………!」


ベラミーは暫し腰が抜けたように仰天していた。





「オイ銭ゲ…、女。

名無しさんは休みか。」


大学の裏門前。


いつも迎えに行く曜日と時間に車を付けていたドフラミンゴは、ナミだけが向かって来るのを見るとすぐに問いかけた。


「これ、返すわ。」


それには答えず、大きな紙袋を開いていた後部座席の窓へドサリと投げ込む。


「物に罪は無いけど、名無しさんを傷つけた男に貰ったモンなんて、胸クソ悪くて使ってらんないから。」


「…どういうことだ。」


どうやら今迄名無しさんの男避け報酬として渡していた品々らしい。

聞き捨てならない理由を耳にし、眉根を寄せる。


「フン、そりゃあそっちは気付いてないでしょうね。

アンタが高級車の中で、派手な女たち侍らしてるとこを見たのよ。」


「……!!」

サングラスに隠れている鋭い目が見開かれる。


「私も馬鹿だったわ。

こんな男に名無しさんを…」


「…何処に居る。」


底冷えするような低い声。



「教えないわよ!」


「言え、名無しさんは何処だ…!!」


激昂され、乱暴に開かれたドアと現れた規格外の長身に、さすがに恐怖が込み上げるがグッと睨みを効かせた。


「…殺されたって言わない。」


ドフラミンゴは一瞬こめかみに筋を立てて一歩踏み出したが、拳を握り締めて踏み留まった。


―この女を傷つければきっと、名無しさんを永久に失ってしまうことになる。


舌打ちをして運転席へ戻り、轟音を立ててアクセルをふかすとすぐにスマートフォンを取り出した。



「ヴェルゴか。

頼みがある。…捜索だ。」



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ