dream■mid_Croco_trip
□truth or lie?
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「マジで…、
してやられた!」
ガクリと脱力すると、煩い鼓動はそのままに、両腕をテーブルに投げ出して突っ伏す。
―やっぱ、こんな色気滴る男が私ひとりなんかで満足する訳無いんじゃないか…!?
だって、恋人としてだいぶ慣れている筈の私ですら未だにドキドキさせられるのだ。
暫し悶々としつつ呆けていた私は、何とはなしに正面にあるクロコダイルのPCに目を向けた。
「…、
あっ、まちが…、…あれ?!」
間抜けな独り芝居をし、そして驚いて手を止める。
吸い寄せられるようにPCの前に座り、ロックされていた画面を開こうとするとログインパスが必要だった。
ついいつもの手癖で自分のPCと同じパスワードを入れると、あろうことか開いてしまったのである。
「……クロコダイルも私の誕生日に…してるんだ。」
何となく暴いてはいけないところを暴いてしまったような、そして照れ臭いような感情が湧き上がりつつも、続けて起動したままであったブラウザに目を向ける。
「…!
あ、これ…だったんだ。」
それは365日の年間記念日・行事が余すことなく記されたサイトで、偶発的ではなくブクマに入れて随時確認をしていたようだ。
「もしかして…。」
バレンタインのとき、自分に遠慮して行事ごとを隠すなと言い含められた。
思えばあれ以来であったように思う。記念日質問の嵐が始まったのは。
「…!!」
更にブクマを見ると、そこには政治・経済関連サイトの他にあらゆるジャンルの情報が並んでいた。
そしてそれらは全て―
「私が行きたいって言ったことある場所…、私の好きな食べ物…、私の仕事の業界情報…、
それから…」
けれどもそこで私は言葉を詰まらせ、先を継ぐことができなかった。
断言できる。
あの人はこんなこと、絶対に私以外にはしない。
私は今日一日の自分の心模様を恥じ、そして胸が一杯になった。
「疑ってごめん…、クロコダイル。」
「何を疑われてたか知らねェが、覗き見は感心しねェなァ、名無しさん?」
「!!」
いずれ部屋に戻ってくるということを失念してしまっていた矢先、背後から掛けられた声にビクリと身体を震わせる。
「あ…、
ご、ごめん…、いや、その…。」
流石に気まずく思っておずおずと視線を上げると、怒りでもないいつになく真剣味を帯びた顔が此方を見下ろしていた。
「俺にゃてめェだけだ、無駄な心配をするんじゃねェ。
愛してるぜ、名無しさん。」
「………は………?!!?」
どんなに機嫌が良くとも、そして冗談混じりにすらも言う筈の無い台詞。
私が麻痺したように呆然と口を開けていると、ややあってクロコダイルは悪戯っぽく口端を吊らせて視線を斜めに上げた。
「…あ、日付変わってる…!」
その視線を追って時計を見ると、デジタル壁時計が『APR.1』の表示を示していた。
「うっわ…、うっわ!!
普通、恋人相手にそんな嘘吐く?!
死ぬほど恥ずかしい上に最悪なんだけど…!」
さきほどまでとは全く違う熱を上げてぎゃあぎゃあと喚く私を面白そうに見遣り、葉巻に火を点ける。
その様子を憎々しげに睨んでいた私はしかし、ふとある可能性に思い至って急停止した。
「…いや待てよ、でも経過時間的に、発言時はまだ3月31日だったのかも…?」
再度時計を見遣った後に屹と問う視線をぶつけたが、涼しげに笑むばかりで答えようとはしない。
「ねぇ、どっちなの?!」
「クハハハ、…さァな。」
焦れて畳み掛ける私に、わざと紫煙を吹き掛けるクロコダイル。
結局、初めての愛の言葉は嘘か誠かわからぬままだった。
けれども何だかそれも私たちらしい気がしてきて、翌朝からは仕返しにもならない他愛無い嘘を吐き通して笑い合ったのだった。
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