dream■short_T

□不敵でヘタレな幼馴染
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「ねぇ、昨夜ドフラミンゴどうだった!?」


「最っ高…、

すっごく良かった…。」


思い出してウットリとした顔をする女子生徒に、キャーという黄色い歓声が上がる。



名無しさんは、そんな話を教室でおおっぴらにするギャル軍団の側を、鼻で嗤いながら通り過ぎた。



「あっ、

ねぇ名無しさん、ドフラミンゴってスッゴイのね?


幼馴染なんだからアンタが一番ヤってるんでしょ?」


昨夜の感想を述べた生徒が、それに気づき声を掛ける。



「…はぁ?

気色悪い誤解はやめてくれる?


ありえないし。一切無いし。」


名無しさんは盛大に顔を顰めて茶色い頭の集団を見下ろす。



「マジで?!


…でもまぁ、そっかー。

幼馴染だと却って手ぇ出す気になんないのかもねー。」


「えー名無しさんみたいな超美形でも?」


「家族みたいなもんなんじゃない?

お互いそんな目で見れないのよきっと!」


かしましく勝手な評を下す女子たちに、名無しさんは一瞥をくれただけでその場を立ち去った。



都会の郊外という中途半端な地域の、と或る高校。


その界隈でも一際目を引く存在の二人は、ちょっとした有名人であった。



近隣で最も身長が高いドフラミンゴはそれだけでも目立っていたが、金髪にサングラス、着崩したブレザーのインナーは必ずショッキングピンク。

いわゆるヤンキーといったカテゴリーに入るのだろうが、それが妙にスタイリッシュに決まっていた。


見た目に違わず、ここら一帯のめぼしい女子高生は全員喰ったという噂もある。

ちょっと悪そうなところもイイなどと言う女子たちの言葉を聞き、ちょっとどころかドス黒だと腹で毒づくのは、その幼馴染の名無しさん。



こちらは近隣で最も美麗な女子高生であり、艶のある真っ直ぐな黒髪に切れ長の瞳、流行りに乗らない正統派な着こなしの制服。

これで大和撫子な性格であればさぞかし男子生徒を虜にしたのだろうが、あまりに男勝りな性格のせいか、言い寄って来る者は一人たりとも居なかった。







「あァ、最近ケバい女どもにゃ飽きてきたぜ。


オイ名無しさん、お前の取り巻きのお嬢っぽい奴らァ誰か喰わせろよ。」


ドフラミンゴはニヤリと下卑た笑いを浮かべた。



名無しさんの部活が終わる頃まで校内でダラダラしていたらしきドフラミンゴと、体育館を出たところで行き会い帰宅中。


因みに名無しさんの部活とは空手であり、インターハイレベルの実力の持ち主である。



「…別に私のモンじゃないし。

勝手に取って食えば。」


醒めた口調で言い放ち、少し足早になり並んでいたドフラミンゴを追い越す。



「オーオーひでぇ言い草だなァ、自分の崇拝者たちは大事にしろよ?


…男にゃ全くモテねぇんだからよォ。」


大股数歩ですぐに追いついたドフラミンゴは、猫背な体躯を大きく曲げて名無しさんの顔を誂うように覗き込んだ。



「…煩いな。

興味無いよそんなの。」


「オイオイ、それでも年頃の女か?


…名無しさんお前まさか、女が好きなんじゃねぇだろうな…?」


何故か真顔になり、口をへの字にして問い質す。



「は?馬鹿なこと言わないでよ、違うし!


…まぁでも、アンタみたいな男を選ぶくらいだったら同性選ぶかもね。」


名無しさんは所定の位置に戻ったドフラミンゴを見上げ、ジロリと横目で思いっきり蔑んだような視線を突き刺した。



「フッフッフッ、相変わらず可愛くねぇ女だぜ…」


ドフラミンゴは肩を竦めると、いつも浮かべている薄ら笑いに引き戻った。







―その翌日。



「それでは数学を始める。

教科書を出せ。


…変だな、俺の数学の教科書が無いぞ。」


「…テメェの担当は数学じゃねぇだろ。」


毎度お馴染みとなっている、サングラスをかけた教員とは思えぬ強面の男と、同じくサングラス不良男子の漫才のようなやり取り。

だが、教師のほうはわざとボケているわけではない。



「そうだ、俺は英語教師だった。」


「いいよヴェルゴ先生数学で。

私、英語キライだし。」


その幼馴染の女子がそれに割って入るのも日常で、クラスに押し殺したような笑い声がさざめく。



教師ヴェルゴの、恐怖感を与えるその容姿と意外にも指導に長けている尊敬の念から、異常な天然発言に誰も突っ込める者は居なかった。


―肝の据わったドフラミンゴと名無しさん以外は。



「名無しさん、確かにお前の英語の成績は目も当てられないぞ。」


「いいじゃん、理系教科と体育で進学できるよ。」


「進学する気でいたのか?

ならば英語は理系でも必須だ。


両親がアメリカに居るのだろう、いっそあちらに移住したらどうだ。」


「余計なこと言ってんじゃねぇよ、サッサと授業始めろ!」


さきほどまで窓べりに肘をかけかったるそうにしていたドフラミンゴが、急に不機嫌な声を出した。


「ン?

お前が授業を督促するとは珍しいな。


…ときに、おつるさんは元気かドフィ。」



「…!

その呼び方やめやがれっつってんだろ!

ばあちゃんの話も学校ですンじゃねぇ!」


いつも余裕ぶった態度のドフラミンゴが照れ臭さを隠すため虚勢を張っている姿に、名無しさんは意地悪そうにほくそ笑んだ。



ドフラミンゴの祖母、つるは早くに両親を亡くした孫を女手ひとつで育て上げた。

幼馴染の名無しさんも、両親とつるが大変親しかった為、度々の父母不在時には世話になり孫も同然であった。


つるは元教師で、ヴェルゴは教え子であったらしくその影響で教員の道を選んだという。


従って、尊敬する恩師の孫であるドフラミンゴを、見た目にはわからないが大層可愛がっているのであった。
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