dream■mid_Dofla_modern parody

□ドンキホーテ・ファミリーカラオケ大会
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「は、初めて見た…

ここのカラオケ機器が使用されているのを…。」


名無しさんがバイト先のカラオケ店(偽)の扉を開けると、あろうことか大音量の音楽。

それは紛れもなく、平素は怪しげな取引しか行われないカラオケルームが使用されている音であった。



「よぉ名無しさん!

今日は不定期開催のドンキホーテ・ファミリーカラオケ大会だぜ!」


いつになくテンション高く登場したのは、唯一の同僚、ベラミー。



「は!?

いやいやちょっと待ってよ。

急な来客で人手が足りないから手伝えって話だったよね?!」



「ドフラミンゴさんがお前を呼べっつーからよ、

騙して呼ぶしかねぇだろ!」


騙したという旨を堂々と公言し、ビシッと親指を立ててドヤ顔をしている馬鹿男に詳細を問い詰めると、
カラオケは好きではないと言っていた名無しさんを来させる為の口実であったという。



「この駄忠犬ベラ公が…!!」


片足を踏み鳴らして悪態をつく。


「てかマジそれなら帰るし!

レポート期限迫ってて遊んでるヒマ無…」


「ドフラミンゴさんが業務扱いでいいって言ってたぜ?

ちなみに時給は3割増しだ。」


「な…、何ですと?」


ピクリと反応し、まんまと一変する名無しさん。


「そっかそっか、うんうん。そういうことなら引き受けることも吝かではない。」


「お前…、

…まぁいい。ドフラミンゴさんの命令を果たせたんだしな。」


何か突っ込みたそうな忠犬はしかし、結果的に助かった訳であり、言葉を引っ込め主人のもとへ導いた。



「名無しさん、久しぶりだな。」


「あっ、名無しさん!来た来た。」


「早くいらっしゃいよ!」


「若がお待ちかねだすやん。」



大人数の若い衆の中に、紹介され何度か遭ったことのある「幹部」と呼ばれる面々も揃っていた。


「遅ぇぞ、名無しさん。」


まるで王様のように、その大部屋の真ん中に据えられたピンクのフェザーソファで酒を煽っているのは当然、我らがオーナーである。



「ヴェルゴさんお久しぶりです。

ベビー5さんにモネさん、バッファローさんも!」


上座の幹部エリアに座している面々や、「姐さんお待ちしてやした!」などと盛り上がる若い衆ににこやかに挨拶する。


「…おい、真っ先に俺ンとこに来やがれ。」


嬉しげな他メンバーとは相反し、不機嫌に口をへの字にひん曲げるドフラミンゴ。


「何言ってんスか業務なんですから、まずは外部に挨拶でしょうが!」


「矢張り釣られた理由はカネか…。」


予感はしたのでベラミーに応じなかった場合そうしろと命じていたことがバッチリと功を奏し、複雑な表情を浮かべる。



「ほら、名無しさんも歌いなさいよ。」


挨拶が落ち着くとモネにマイクと機器を渡されたが、ふるふると首を振り皿を手にする。


「ここのピザ大好物なんです。

暫く食べに徹しますんでお構いなく。」


示されたドフラミンゴの隣に腰を下ろし、目を輝かせて伸びるチーズを切っていると、男は口角を吊り上げた。


「フッフッフッ…、

お前がそれを好きだと言ってたんでな。

俺ァよくわからねぇが人気だっつーやつを一通り頼ませた。」


「わーおマジですか!

やった!ドフラミンゴさん大好き!」


「………。」


かなり軽々しく発された言葉に、急激に真顔を呈する男。


その様子を横目で見ながら、そういえば、真面目にも冗談にも私ってあんまりそういうこと言わないかもな、と気づく名無しさん。

そしてまぁいっか、と意識をピザに戻す罪な女。



ドフラミンゴは徐ろにスマートホンを取り出すと、部下らしき相手に連絡を取り始めた。



「ピザを追加しろ。

あ?全種類だ。」


口いっぱいに頬張ったものを思わず全て吹き出しそうになった名無しさんは、かろうじて堪えるとコーラでごくりと飲み下した。


「それ嫌がらせ相手にやる行為以外聞いたことないわ…。

てかそんな喰えるか…!

ほらヴェルゴさん、何とか言ってやって!」


黙々とハンバーガーを食べていたヴェルゴに助けを求める。


「ドフィが女の為に労を惜しまない姿を見られる日が来るとはな…。

感慨深いものがある。」


「この親馬鹿が…!!」


真面目な声で返された馬鹿馬鹿しい返答に、思わず全力で突っ込みを入れる。




ピザ大量事変を何とか未遂に収めた名無しさんは、腹拵えを終えると何だかんだでそれなりにその場を楽しみ始めた。


「へぇー、結構うまい人多いんだ。」


「きゃーっモネさんとベビー5さん、アイドルユニット!!」


「あっはっはっ…!

バッファローさんバラードとか意外過ぎ!

てかうまいし!いや笑っちゃ悪いけどウケる!」


「う、うおおおぉおおおおお………!!


ヴェルゴさん演歌!?

渋っ!てかうっまぁ!?」



次々に感想を飛ばすが一向に歌おうとしない名無しさんに、ドフラミンゴは首を傾げながら問いかけた。


「おい名無しさん、お前は歌わねぇのか。」


「ん?あぁ…、私、飲みとか合コンとか行かないからさ。

あんま歌とか、知らないんだ。」


「そいつァいい心掛けだが、一曲もわからねぇってこたァねぇだろ。

折角だ、聴かせろよ。」


さらりと躱したにも関わらず追い打ちをかけられ黙り込む。


「いや、…えっと、宗教上の理由でちょっと…」


「どんな嘘だテメェ…

ドフラミンゴさんが聴きたがってんだろ、早くしやがれ!」


横から割り込み、無理にマイクを持たせ誰もが知っている曲を入れたのは勿論、忠犬ベラ公。


名無しさんは恨みがましい目をしながらも、今や部屋中の皆に囃され観念したように歌い始めた。





「何つーか、あれだ…。

無理強いして悪かった…。」


「…哀しくなるから謝んな…!」


曲が終わると、静まり返った部屋にぽつりとベラミーの謝罪の言葉が響いた。



「ほら、今日はファミリーだけの内輪だから…、元気出して、名無しさん。」


「このことは決して外部には漏らさないわ。」


「人間誰しも、弱点はあるだすやん。」


「気遣わないで、慰めないで…!お願い貶して、私を貶してー!!」



誂われたほうがまだましな同情の空気に耐えられず、ヒステリーを起こす名無しさん。


横のドフラミンゴを見ると、右掌で目元から額を覆い、大きく前傾して肩を小刻みに震わせている。



「ドフラミンゴさんも、そんな声にならない笑い方とかさ…」


「聴いたかヴェルゴ…。


あの恥じらいながらの辿々しい声…

何て可愛い奴だ、たまんねぇぜ…!そうは思わねぇか?」


どうやら常人には理解できない感性で、名無しさんの可愛さに悶えていたらしい。


何と言ってよいかわからない周囲に勝って、褒められた筈の等の本人は顔を引き攣らせた。


「…ヴェルゴさん、このいい歳した馬鹿男の頭を冷やしてやって…」


「わかるよドフィ。」


「この親馬鹿が…!!」


二度目の盛大な突っ込みを入れた名無しさんは、いい加減気恥ずかしくなり誤魔化すようにベラミーとドフラミンゴへマイクを突き付けた。



「てかまだベラミーとドフラミンゴさん歌ってないでしょ!

はい次だよサッサとする!」


「いや、俺ァ…」


僅かに眉を顰めた様子にキラリと目を光らせる。


「この反応は…!!

さてはドフラミンゴさんもかなりの下手くそだな!?


だったら私にばっか恥かかせないでよねー!」


グイグイと押し付けられるが顔を背けるその姿にますます煽りをかけるが、ベラミーがそれを押し留めた。


「テメェな、オーナーが軽々しくそんなもん披露できっか。

ドフラミンゴさんはいつも歌わねぇんだよ、俺が代理だ貸せ!」


「自分の下手さを露呈させてでも庇うとは…。」


どこまでも主人が全てのその男へ、名無しさんは生温い視線を向けた。






「………………

ベラミーあんた………、うまっ…!」


しかし、予想に反しベラミーは他を圧倒したパフォーマンスを見せた。


流石の名無しさんも揶揄する言葉が見つからず、いや寧ろ感嘆の色を湛え見上げる。


「まぁ、昔ちっとバンドでボーカルやってたんでな。」


フフンと口の端を上げ、満更でもない得意顔をする。


「だからベラミーはいつも大トリなのよ。」


モネが笑いながら説明した。


「いやほんと、普段とは全然違うよ、

スゴイ格好良かった、見直した!!


………って、んお!?」



名無しさんが次々とベラミーに賞賛を浴びせていると、不意に長い腕が目の前を横切りマイクを攫って行った。


「貸せ。」


ドフラミンゴはムスッとした顔で機器をも捕らえ、ピッピッと音を立てて操作を終えるとすぐに音楽の前奏が流れ始めた。


「若が…?」


初めてじゃない?と、モネとベビー5が囁き合っている。






「…………………」


曲が終わると、その場は名無しさんのとき以上にしいんと静まり返った。


しかしマイクを置いたドフラミンゴがドカッとソファに再び座ったのと同時に、怒号のような歓声が響き渡った。



「オーナー……、死ぬほどかっけぇっす!惚れ直したッス!!

一生ついていきます!!」


「若様、素敵!!」


「洋楽とか…似合い過ぎ!」


「プロ並みだすやん…」


「ウゥ…、俺なんか比較にならねぇ…、

やっぱアンタは最高だ…!」


感動の嵐に包まれる三下たち、幹部、そしてもはや半泣きレベルのベラミー。

実力を知っていた風のヴェルゴは満足そうに頷いている。


「何故今迄?!」


「チッ、こうなることが予想できて面倒臭ぇからだろ。」


当然のように起こったアンコールに片手を振り拒否すると、真横で俯く女を覗き込む。

 
元はといえばベラミーをあまりに褒めそやす名無しさんに、嫉妬心から対抗した為であったのに、無反応に気に入らなさを隠せない。


「おい名無しさん、

…!?」


だが背を屈め間近で目にした表情に、サングラスの奥の目を見開いた。



「………反則。


今迄で一番格好良かった。直視できないんだけど…。」


そう言う名無しさんはこれまた今迄に無い、赤らんだ乙女な顔をしていた。



意外さに暫くそのままフリーズしていたが、ドフラミンゴはややあって満足そうに名無しさんの肩を抱き寄せた。


「フッフッフッフッ……!


今日ァ気分がいい、特別に応えてやる。」


その体勢のまま、再びマイクを手にした姿に歓声が沸く。


やだやめて、こんな近くだったら余計心臓圧迫しちゃう!と言い募る名無しさんに、ドフラミンゴの機嫌は更に最高潮に達した。



「ていうか若様と名無しさん、デュエットしたら!?」


「それはいい案だすやん。」


「やめろ、名無しさんは加わんな台無しだろうが!」


「…ベラミーお前、空気読め…!」



こうしてドンキホーテ・ファミリーカラオケ大会は夜更けまで続いた。


その後、名無しさんが参加する回だけオーナーの歌が聴けるという図式が固定された為、哀れな女はあの手この手で呼び出しを受ける運命となったのであった。



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