dream■mid_Dofla_modern parody

□頭上に桜、背にサクラ
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「ドフラミンゴさんってさ…、


もしかしてそれ、桜のコスプレ?!」


名無しさんは、桜の大木に寄りかかり、酒瓶を煽るピンクのフェザーコートの男を指さしてげらげらと笑い転げた。



「おま……っ?!

黙らねぇか馬鹿っ…!!」


ベラミーは一瞬で酔いが醒めたように青ざめ、酩酊した発言主に狂気的な目を向けた。


「えー、だって…、

どー見てもカブってんじゃん。人間なのに……桜と!!」


またも爆笑する姿に最早二の句が継げず、心地良い筈の初春の気温の中、冷や汗をかいて敬愛する恐怖のボスを見遣る。



「フッフッフッフッ…。」


口角を吊り上げてやや俯き加減。低い笑い。

間違い無い、これはキレている―



「名無しさんが楽しそうで何よりだ。」


「…あ?!」



だが、全く予想もしなかった返答に思わず驚愕する。

酔いの過ちであろうが、自分を誂うような発言をした者は容赦無く闇に葬ってきたこの男が…。


共感を求めるように、此の場に相応しくないモノクロづくめの厳ついサングラス男に目を向ける。



「ドフィが楽しそうで何よりだ。」


「……!!」


同じくドフラミンゴを軽んじる発言をした者は容赦無く闇に葬ってきたヴェルゴの、想定外反応に唖然と口を開けた。



遊園地に続き「庶民派」を求める名無しさんのリクエストは、花見であった。

しかも「たった二人なんてつまらない」等と此方の胃が抉れるような台詞を堂々と言い放ち、傘下の者たちも呼び寄せられることとなった。


初めは不機嫌そうだったドフラミンゴだが、どうやら初めて目にする名無しさんの酩酊姿をニヤニヤと見守っている。

ベラミーから見れば、色気の欠片も無い酔い方に、折角の容姿を台無しにしているようにしか見えないのだが。



「しっかしこのお重の豪華料理、全部ヴェルゴさんが作ったとか凄過ぎ…!

ヴェルゴさんって、ドフラミンゴさんのオカンなの?!


いいなー、私もヴェルゴオカン欲しいなー。」


「お、お前……、

命知らずもいい加減に…!」


感心しながら塩ゆでされた海老の頭を殻ごと齧る名無しさん、またも血の気が引く哀れなベラミー。



「訂正しろ、

お母さんだ。」


「………えぇ!?」



「まぁ、それは冗談だが。


…どうだ名無しさん、俺を母にしたければドフィの嫁になるか?」



「………んぇ?」



それは結局冗談ではないということじゃねぇんスか、と突っ込みを入れそうになったベラミーだが、その質問に首を捻る名無しさんを見るドフラミンゴの表情を目にし、思わず引っ込めた。



「ん、じゃあ、なる!」



普段からは有り得ないような無邪気な、素直な返事でへらっと笑う名無しさん。



「…!


フッフッ…、なら此処で誓いのキスでもするか…?」


此方も普段からは有り得ないような笑み。

オーナーを崇拝する女たちの間からきゃあと、悲鳴のような興奮のような声が上がった。



「ん、じゃあ、する!」


まさかの即答に上機嫌極まりないドフラミンゴが迎えるように屈みこんだのと、名無しさんが目を閉じてゆらりと上体を傾けたのは同時だった―



「………」



しかしその唇は触れ合うことは無く、名無しさんはぼふっ、と音を立てて袖下のピンクフェザーコートに埋もれ込んでしまった。



「……………

…寝てやがる。」



舌打ちをするドフラミンゴはしかし、大層ゆっくりとその身を自らに凭せ掛けた。



「この様子じゃ何も覚えていないだろうな。」


彼なりに柔和な笑みを浮かべたヴェルゴは、残念だったなドフィ、と宣う。



「フッフッ、

ならもう一度誘えるじゃねぇか。」


転んでも只では起きないプラス思考の持ち主は、事業以外で執心した初ものを大事そうに抱え直し、頬に落ちてきた花びらを取り去ってやった。







「名無しさん、花見にでも行くか?」


翌日、カラオケ店(偽)のカウンターに顔を出したドフラミンゴは、相変わらず暇そうにしていた名無しさんに早速声を掛けた。


「………。」


それに対し冷ややかかつ曇った視線を向けると、続けて半眼で後方のベラミーを見遣った。



「ベラミーどうしよう…。


ドフラミンゴさんが、有り得ない耄碌を…」


「…!!ば、馬鹿野郎何てことを…!


てかテメェ、記憶あったのかよ!」


またも焦ることとなった矢先、忙しく突っ込みまで入れる忠犬。



「フッフッ。

覚えてるなら話は早ぇ、大学なんざサッサと辞めて俺ンとこに来い。」



片肘をカウンターに乗せ、ズイっと迫るサングラスを数秒見詰めていた名無しさんは、またも首を135度捻って振り返った。



「ベラミーどうしよう…。


ドフラミンゴさんが、ありもしない妄想を…」


「頼むから黙ってくれ…!


てかそこは覚えてねぇのかよ!」


泣きそうな顔で額を手で覆うベラミー、今度は横方向に45度首を捻る名無しさん。



「…?

覚えてないし、何言ったか知らないけど、私って酔うと本音が出るんだって。」


「……。」


「……。」


「らしいよ。

仲いい友だち皆言うから。」



沈黙をどう捉えたのか、淡々と説明を付加する。



「フッフッ…、

フッフッフッフッ…!


そうか。」



やがて、ここ最近で最も機嫌が良さそうに笑うドフラミンゴ。それに合わせてわさわさと桜色コートが揺れる。


ベラミーは安堵したように軽くへたり込んだ。



「まァそれならいずれってことだな、暫く待ってやるぜ。」


「…何を。」



結局ニヤニヤするばかりで答えず、今日は時間が無ぇが顔を見に来ただけだ、また来ると言い残し去って行った。



「てかさ、そんなことよりヴェルゴさんのお弁当ホント美味しかったよね!


やっぱ花より団子だよね!!」


昨日とは一変、最早興味も無さそうに別の話題に移る。



「お前は一体、何処を覚えてて何処を忘れてんだ…。」



掴みどころの無い女に、昨日からの疲労がドッと押し寄せる。


何故か恋人よりもその部下のほうが振り回されている理不尽な状況に、毎度ながら腑に落ちない苦労性の男は枝垂れ桜のように首を垂れた。



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